桃太郎
小学校 国語 第4学年 C 読むこと 目安 35 分
学習のめあて
- 場面の展開(誕生/旅立ち/家来集め/鬼退治/凱旋)を追いながら、桃太郎・おじいさん・おばあさん・家来たちの気持ちを読み取る
- 「ドンブラコッコ、スッコッコ」「ガラガラ、ピシャン」「ドンドコドン」など、繰り返しのリズムや音の言葉が物語にどんな効果を与えているかを考える
- 自分が知っている他の昔話と比べて、共通する形(パターン)を見つけ、友だちと話し合う
本文
一
むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがありました。まいにち、おじいさんは山へしば刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
ある日、おばあさんが、川のそばで、せっせと洗濯をしていますと、川上から、大きな桃が一つ、
「ドンブラコッコ、スッコッコ。
ドンブラコッコ、スッコッコ。」
「おやおや、これはみごとな桃だこと。おじいさんへのおみやげに、どれどれ、うちへ持って帰りましょう。」
おばあさんは、そう言いながら、腰をかがめて桃を取ろうとしましたが、遠くって手がとどきません。おばあさんはそこで、
「あっちの水は、かあらいぞ。
こっちの水は、ああまいぞ。
かあらい水は、よけて来い。
ああまい水に、よって来い。
「ドンブラコッコ、スッコッコ。
ドンブラコッコ、スッコッコ。」
「早くおじいさんと二人で分けて食べましょう。」
と言って、桃をひろい上げて、洗濯物といっしょにたらいの中に入れて、えっちら、おっちら、かかえておうちへ帰りました。
夕方になってやっと、おじいさんは山からしばを背負って帰って来ました。
「おばあさん、今帰ったよ。」
「おや、おじいさん、おかいんなさい。待っていましたよ。さあ、早くお上がんなさい。いいものを上げますから。」
「それはありがたいな。何だね、そのいいものというのは。」
こういいながら、おじいさんはわらじをぬいで、上に上がりました。その間に、おばあさんは戸棚の中からさっきの桃を重そうにかかえて来て、
「ほら、ごらんなさいこの桃を。」
と言いました。
「ほほう、これはこれは。どこからこんなみごとな桃を買って来た。」
「いいえ、買って来たのではありません。今日川で拾って来たのですよ。」
「え、なに、川で拾って来た。それはいよいよめずらしい。」
こうおじいさんは言いながら、桃を両手にのせて、ためつ、すがめつ、ながめていますと、だしぬけに、桃はぽんと中から二つに割れて、
「おぎゃあ、おぎゃあ。」
と勇ましいうぶ声を上げながら、かわいらしい赤さんが元気よくとび出しました。
「おやおや、まあ。」
おじいさんも、おばあさんも、びっくりして、二人いっしょに声を立てました。
「まあまあ、わたしたちが、へいぜい、どうかして子供が一人ほしい、ほしいと言っていたものだから、きっと神さまがこの子をさずけて下さったにちがいない。」
おじいさんも、おばあさんも、うれしがって、こう言いました。
そこであわてておじいさんがお湯をわかすやら、おばあさんがむつきをそろえるやら、大さわぎをして、赤さんを抱き上げて、うぶ湯をつかわせました。するといきなり、
「うん。」
と言いながら、赤さんは抱いているおばあさんの手をはねのけました。
「おやおや、何という元気のいい子だろう。」
おじいさんとおばあさんは、こう言って顔を見合わせながら、「あッは、あッは。」とおもしろそうに笑いました。
そして桃の中から生まれた子だというので、この子に桃太郎という名をつけました。
二
おじいさんとおばあさんは、それはそれはだいじにして桃太郎を育てました。桃太郎はだんだん成長するにつれて、あたりまえの子供にくらべては、ずっと体も大きいし、力がばかに強くって、すもうをとっても近所の村じゅうで、かなうものは一人もないくらいでしたが、そのくせ気だてはごくやさしくって、おじいさんとおばあさんによく孝行をしました。
桃太郎は十五になりました。
もうそのじぶんには、日本の国中で、桃太郎ほど強いものはないようになりました。桃太郎はどこか外国へ出かけて、腕いっぱい、力だめしをしてみたくなりました。
するとそのころ、ほうぼう外国の島々をめぐって帰って来た人があって、いろいろめずらしい、ふしぎなお話をした末に、
「もう何年も何年も船をこいで行くと、遠い遠い海のはてに、鬼が島という所がある。悪い鬼どもが、いかめしいくろがねのお城の中に住んで、ほうぼうの国からかすめ取った貴い宝物を守っている。」
と言いました。
桃太郎はこの話をきくと、その鬼が島へ行ってみたくって、もう居ても立ってもいられなくなりました。そこでうちへ帰るとさっそく、おじいさんの前へ出て、
「どうぞ、わたくしにしばらくおひまを下さい。」
と言いました。
おじいさんはびっくりして、
「お前どこへ行くのだ。」
と聞きました。
「鬼が島へ鬼せいばつに行こうと思います。」
と桃太郎はこたえました。
「ほう、それはいさましいことだ。じゃあ行っておいで。」
とおじいさんは言いました。
「まあ、そんな遠方へ行くのでは、さぞおなかがおすきだろう。よしよし、おべんとうをこしらえて上げましょう。」
とおばあさんも言いました。
そこで、おじいさんとおばあさんは、お庭のまん中に、えんやら、えんやら、大きな臼を持ち出して、おじいさんがきねを取ると、おばあさんはこねどりをして、
「ぺんたらこっこ、ぺんたらこっこ。ぺんたらこっこ、ぺんたらこっこ。」
と、おべんとうのきびだんごをつきはじめました。
きびだんごがうまそうにでき上がると、桃太郎のしたくもすっかりでき上がりました。
桃太郎はお侍の着るような陣羽織を着て、刀を腰にさして、きびだんごの袋をぶら下げました。そして桃の絵のかいてある軍扇を手に持って、
「ではおとうさん、おかあさん、行ってまいります。」
と言って、ていねいに頭を下げました。
「じゃあ、りっぱに鬼を退治してくるがいい。」
とおじいさんは言いました。
「気をつけて、けがをしないようにおしよ。」
とおばあさんも言いました。
「なに、大丈夫です、日本一のきびだんごを持っているから。」と桃太郎は言って、
「では、ごきげんよう。」
と元気な声をのこして、出ていきました。おじいさんとおばあさんは、門の外に立って、いつまでも、いつまでも見送っていました。
三
桃太郎はずんずん行きますと、大きな山の上に来ました。すると、草むらの中から、「ワン、ワン。」と声をかけながら、犬が一ぴきかけて来ました。
桃太郎がふり返ると、犬はていねいに、おじぎをして、
「桃太郎さん、桃太郎さん、どちらへおいでになります。」
とたずねました。
「鬼が島へ、鬼せいばつに行くのだ。」
「お腰に下げたものは、何でございます。」
「日本一のきびだんごさ。」
「一つ下さい、お供しましょう。」
「よし、よし、やるから、ついて来い。」
犬はきびだんごを一つもらって、桃太郎のあとから、ついて行きました。
山を下りてしばらく行くと、こんどは森の中にはいりました。すると木の上から、「キャッ、キャッ。」とさけびながら、猿が一ぴき、かけ下りて来ました。
桃太郎がふり返ると、猿はていねいに、おじぎをして、
「桃太郎さん、桃太郎さん、どちらへおいでになります。」
とたずねました。
「鬼が島へ鬼せいばつに行くのだ。」
「お腰に下げたものは、何でございます。」
「日本一のきびだんごさ。」
「一つ下さい、お供しましょう。」
「よし、よし、やるから、ついて来い。」
猿もきびだんごを一つもらって、あとからついて行きました。
山を下りて、森をぬけて、こんどはひろい野原へ出ました。すると空の上で、「ケン、ケン。」と鳴く声がして、きじが一羽とんで来ました。
桃太郎がふり返ると、きじはていねいに、おじぎをして、
「桃太郎さん、桃太郎さん、どちらへおいでになります。」
とたずねました。
「鬼が島へ鬼せいばつに行くのだ。」
「お腰に下げたものは、何でございます。」
「日本一のきびだんごさ。」
「一つ下さい、お供しましょう。」
「よし、よし、やるから、ついて来い。」
きじもきびだんごを一つもらって、桃太郎のあとからついて行きました。
犬と、猿と、きじと、これで三にんまで、いい家来ができたので、桃太郎はいよいよ勇み立って、またずんずん進んで行きますと、やがてひろい海ばたに出ました。
そこには、ちょうどいいぐあいに、船が一そうつないでありました。
桃太郎と、三にんの家来は、さっそく、この船に乗り込みました。
「わたくしは、漕ぎ手になりましょう。」
こう言って、犬は船をこぎ出しました。
「わたくしは、かじ取りになりましょう。」
こう言って、猿がかじに座りました。
「わたくしは物見をつとめましょう。」
こう言って、きじがへさきに立ちました。
うららかないいお天気で、まっ青な海の上には、波一つ立ちませんでした。稲妻が走るようだといおうか、矢を射るようだといおうか、目のまわるような速さで船は走って行きました。ほんの一時間も走ったと思うころ、へさきに立って向こうをながめていたきじが、「あれ、あれ、島が。」とさけびながら、ぱたぱたと高い羽音をさせて、空にとび上がったと思うと、スウッとまっすぐに風を切って、飛んでいきました。
桃太郎もすぐきじの立ったあとから向こうを見ますと、なるほど、遠い遠い海のはてに、ぼんやり雲のような薄ぐろいものが見えました。船の進むにしたがって、雲のように見えていたものが、だんだんはっきりと島の形になって、あらわれてきました。
「ああ、見える、見える、鬼が島が見える。」
桃太郎がこういうと、犬も、猿も、声をそろえて、「万歳、万歳。」とさけびました。
見る見る鬼が島が近くなって、もう硬い岩で畳んだ鬼のお城が見えました。いかめしいくろがねの門の前に見はりをしている鬼の兵隊のすがたも見えました。
そのお城のいちばん高い屋根の上に、きじがとまって、こちらを見ていました。
こうして何年も、何年もこいで行かなければならないという鬼が島へ、ほんの目をつぶっている間に来たのです。
四
桃太郎は、犬と猿をしたがえて、船からひらりと陸の上にとび上がりました。
見はりをしていた鬼の兵隊は、その見なれないすがたを見ると、びっくりして、あわてて門の中に逃げ込んで、くろがねの門を固くしめてしまいました。その時犬は門の前に立って、
「日本の桃太郎さんが、お前たちをせいばいにおいでになったのだぞ。あけろ、あけろ。」
とどなりながら、ドン、ドン、扉をたたきました。鬼はその声を聞くと、ふるえ上がって、よけい一生懸命に、中から押さえていました。
するときじが屋根の上からとび下りてきて、門を押さえている鬼どもの目をつつきまわりましたから、鬼はへいこうして逃げ出しました。その間に、猿がするすると高い岩壁をよじ登っていって、ぞうさなく門を中からあけました。
「わあッ。」とときの声を上げて、桃太郎の主従が、いさましくお城の中に攻め込んでいきますと、鬼の大将も大ぜいの家来を引き連れて、一人一人、太い鉄の棒をふりまわしながら、「おう、おう。」とさけんで、向かってきました。
けれども、体が大きいばっかりで、いくじのない鬼どもは、さんざんきじに目をつつかれた上に、こんどは犬に向こうずねをくいつかれたといっては、痛い、痛いと逃げまわり、猿に顔を引っかかれたといっては、おいおい泣き出して、鉄の棒も何もほうり出して、降参してしまいました。
おしまいまでがまんして、たたかっていた鬼の大将も、とうとう桃太郎に組みふせられてしまいました。桃太郎は大きな鬼の背中に、馬乗りにまたがって、
「どうだ、これでも降参しないか。」
といって、ぎゅうぎゅう、ぎゅうぎゅう、押さえつけました。
鬼の大将は、桃太郎の大力で首をしめられて、もう苦しくってたまりませんから、大つぶの涙をぼろぼろこぼしながら、
「降参します、降参します。命だけはお助け下さい。その代わりに宝物をのこらずさし上げます。」
こう言って、ゆるしてもらいました。
鬼の大将は約束のとおり、お城から、かくれみのに、かくれ笠、うちでの小づちに如意宝珠、そのほかさんごだの、たいまいだの、るりだの、世界でいちばん貴い宝物を山のように車に積んで出しました。
桃太郎はたくさんの宝物をのこらず積んで、三にんの家来といっしょに、また船に乗りました。帰りは行きよりもまた一そう船の走るのが速くって、間もなく日本の国に着きました。
船が陸に着きますと、宝物をいっぱい積んだ車を、犬が先に立って引き出しました。きじが綱を引いて、猿があとを押しました。
「えんやらさ、えんやらさ。」
三にんは重そうに、かけ声をかけかけ進んでいきました。
うちではおじいさんと、おばあさんが、かわるがわる、
「もう桃太郎が帰りそうなものだが。」
と言い言い、首をのばして待っていました。そこへ桃太郎が三にんのりっぱな家来に、ぶんどりの宝物を引かせて、さもとくいらしい様子をして帰って来ましたので、おじいさんもおばあさんも、目も鼻もなくして喜びました。
「えらいぞ、えらいぞ、それこそ日本一だ。」
とおじいさんは言いました。
「まあ、まあ、けががなくって、何よりさ。」
とおばあさんは言いました。
桃太郎は、その時犬と猿ときじの方を向いてこう言いました。
「どうだ。鬼せいばつはおもしろかったなあ。」
犬はワン、ワンとうれしそうにほえながら、前足で立ちました。
猿はキャッ、キャッと笑いながら、白い歯をむき出しました。
きじはケン、ケンと鳴きながら、くるくると宙返りをしました。
空は青々と晴れ上がって、お庭には桜の花が咲き乱れていました。
挿絵ギャラリー
物語の場面を、明治・大正期の児童書の挿絵を意識した和風水彩のタッチで表現しました。
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ドンブラコッコ、スッコッコ。川上から大きな桃が流れてくる。 -
「日本一」の旗をさして、犬・猿・きじと旅へ。 -
鬼が島で、鬼たちが頭を下げて宝物を差し出す。
語句の意味
- しば刈(か)り 「しば」は、たきぎ用の小枝。それを山で刈り取って集めること。むかしの農村では大切な仕事だった。
- たらい 洗濯物や水をいれる、底の浅い大きな容器。木の板や金属を曲げて作った。
- きび団子(だんご) 「きび」は穀物の一種。それを粉にして練り、ゆでて作るおだんご。岡山県の名物として知られ、桃太郎伝説の発祥地ともされる。
- きじ 日本の国鳥。きれいな羽の色をしたキジ科の鳥。
- 鬼が島(おにがしま) 鬼たちが住んでいる、海のかなたの島。実在の島ではなく、昔話の中の場所。岡山県の女木島(めぎじま)や香川県の屋島がモデルだと言われる。
- 家来(けらい) 主人につかえる人。桃太郎にとっての犬・猿・きじが家来となる。
- 旗(はた) 桃太郎が「日本一」と書いた旗をさして出かける。旗は、戦のときに自分の名や決意を示すしるしだった。
- 太刀(たち) 腰につけて持ち歩く、長い刀。
- 軍配(ぐんばい) 戦のときに、大将が指図に使った道具。今では相撲の行司が使う。
- 鉄棒(てつぼう) 鉄で作ったぼう。鬼の武器として描かれる。
- 宝物(たからもの) 大切な品物、貴重な品物。鬼が集めてかくしておいた金銀・着物・米・宝石など。
- 凱旋(がいせん) 戦いに勝って、無事に帰ること。
考えてみよう
- おじいさんとおばあさんは、川から流れてきた桃をどうしましたか。本文の言葉を引いて整理しましょう。
- 桃太郎が犬・猿・きじを家来にする場面で、それぞれに同じことを言って同じものを渡しています。同じ言葉のくり返しは、物語にどんな効果を与えていますか。
- 桃太郎は鬼が島でどんなふうに戦いましたか。順を追って書きましょう。
- 鬼が桃太郎にあやまり「もう悪いことはしません」と言って、宝物をさし出します。あなたが桃太郎だったら、鬼の命を助けますか、助けませんか。理由もそえて書きましょう。
- 「むかしばなしには『小さな主人公が、大きなものに打ち勝つ』というおきまりの形がたくさんある」と、3年生のときに「一寸法師」で学びました。桃太郎にも同じ形がありますか。両方を比べて、にているところとちがうところを書きましょう。
指導要領との対応
このページは、文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」国語 第4学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。
- C(1)エ — 登場人物の気持ちの変化や性格、情景について、場面の移り変わりと結び付けて具体的に想像する
- C(1)カ — 文章を読んで感じたことや考えたことを共有し、一人一人の感じ方などに違いがあることに気付く
- 知識・技能(3)ア — 易しい文語調の短歌や俳句を音読したり暗唱したりするなどして、言葉の響きやリズムに親しむ
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