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ごんぎつね

小学校 国語 第3学年 C 読むこと 目安 30 分

作者
新美南吉(1913–1943)
原作発表
1932 年
出典
青空文庫
底本:「新美南吉童話集」岩波文庫、岩波書店、1996年7月16日第1刷発行

学習のめあて

  • 場面の移り変わりに沿って、ごんと兵十それぞれの気持ちの変化を読み取る
  • 「いたずら」から「つぐない」へと変わっていくごんの行動の意味を、叙述から具体的に想像する
  • 最後の場面の余韻について、自分の言葉で感じたことを述べ合う

本文

 これは、わたしが小さいときに、村の茂平もへいというおじいさんからきいたお話です。

 むかしは、私たちの村のちかくの、中山なかやまというところに小さなお城があって、中山さまというおとのさまが、おられたそうです。

 その中山から、少しはなれた山の中に、「ごんぎつね」という狐がいました。ごんは、一人ひとりぼっちの小狐で、しだの一ぱいしげった森の中に穴をほって住んでいました。そして、夜でも昼でも、あたりの村へ出てきて、いたずらばかりしました。はたけへ入って芋をほりちらしたり、菜種なたねがらの、ほしてあるのへ火をつけたり、百姓家ひゃくしょうやの裏手につるしてあるとんがらしをむしりとって、いったり、いろんなことをしました。

 あきのことでした。二、三日雨がふりつづいたそのあいだ、ごんは、外へも出られなくて穴の中にしゃがんでいました。

 雨があがると、ごんは、ほっとして穴からはい出ました。空はからっと晴れていて、百舌鳥もずの声がきんきん、ひびいていました。

 ごんは、村の小川おがわつつみまで出て来ました。あたりの、すすきのには、まだ雨のしずくが光っていました。川は、いつもは水がすくないのですが、三日もの雨で、水が、どっとましていました。ただのときは水につかることのない、川べりのすすきや、はぎかぶが、黄いろくにごった水に横だおしになって、もまれています。ごんは川下かわしもの方へと、ぬかるみみちを歩いていきました。

 ふと見ると、川の中に人がいて、何かやっています。ごんは、見つからないように、そうっと草の深いところへ歩きよって、そこからじっとのぞいてみました。

兵十ひょうじゅうだな」と、ごんは思いました。兵十はぼろぼろの黒いきものをまくし上げて、こしのところまで水にひたりながら、魚をとる、はりきりという、網をゆすぶっていました。はちまきをした顔の横っちょうに、まるい萩の葉が一まい、大きな黒子ほくろみたいにへばりついていました。

 しばらくすると、兵十は、はりきり網の一ばんうしろの、ふくろのようになったところを、水の中からもちあげました。その中には、しばの根や、草の葉や、くさった木ぎれなどが、ごちゃごちゃはいっていましたが、でもところどころ、白いものがきらきら光っています。それは、ふというなぎのはらや、大きなきすの腹でした。兵十は、びくの中へ、そのうなぎやきすを、ごみと一しょにぶちこみました。そして、また、袋の口をしばって、水の中へ入れました。

 兵十はそれから、びくをもって川からあがり、びくを土手どてにおいといて、何をさがしにか、川上かわかみの方へかけていきました。

 兵十がいなくなると、ごんは、ぴょいと草の中からとび出して、びくのそばへかけつけました。ちょいと、いたずらがしたくなったのです。ごんはびくの中の魚をつかみ出しては、はりきり網のかかっているところより下手しもての川の中を目がけて、ぽんぽんなげこみました。どの魚も、「とぼん」と音を立てながら、にごった水の中へもぐりこみました。

 一ばんしまいに、太いうなぎをつかみにかかりましたが、何しろぬるぬるとすべりぬけるので、手ではつかめません。ごんはじれったくなって、頭をびくの中につッこんで、うなぎの頭を口にくわえました。うなぎは、キュッと言ってごんの首へまきつきました。そのとたんに兵十が、向うから、

「うわアぬすとぎつねめ」と、どなりたてました。ごんは、びっくりしてびあがりました。うなぎをふりすててにげようとしましたが、うなぎは、ごんの首にまきついたままはなれません。ごんはそのまま横っとびにとび出して一しょうけんめいに、にげていきました。

 ほら穴の近くの、はんの木の下でふりかえって見ましたが、兵十は追っかけては来ませんでした。

 ごんは、ほっとして、うなぎの頭をかみくだき、やっとはずして穴のそとの、草の葉の上にのせておきました。

 十日とおかほどたって、ごんが、弥助やすけというお百姓ひゃくしょうの家の裏を通りかかりますと、そこの、いちじくの木のかげで、弥助の家内かないが、おはぐろをつけていました。鍛冶屋かじや新兵衛しんべえの家のうらを通ると、新兵衛の家内がかみをすいていました。ごんは、

「ふふん、村に何かあるんだな」と、思いました。

なんだろう、秋祭かな。祭なら、太鼓や笛の音がしそうなものだ。それに第一、お宮にのぼりが立つはずだが」

 こんなことを考えながらやって来ますと、いつのにか、表に赤い井戸のある、兵十の家の前へ来ました。その小さな、こわれかけた家の中には、大勢おおぜいの人があつまっていました。よそいきの着物を着て、腰に手拭てぬぐいをさげたりした女たちが、表のかまどで火をたいています。大きななべの中では、何かぐずぐずえていました。

「ああ、葬式だ」と、ごんは思いました。

「兵十の家のだれが死んだんだろう」

 おひるがすぎると、ごんは、村の墓地へ行って、六地蔵ろくじぞうさんのかげにかくれていました。いいお天気で、遠く向うには、お城の屋根瓦やねがわらが光っています。墓地には、ひがんばなが、赤いきれのようにさきつづいていました。と、村の方から、カーン、カーン、と、かねが鳴って来ました。葬式の出る合図あいずです。

 やがて、白い着物を着た葬列のものたちがやって来るのがちらちら見えはじめました。話声はなしごえも近くなりました。葬列は墓地へはいって来ました。人々が通ったあとには、ひがん花が、ふみおられていました。

 ごんはのびあがって見ました。兵十が、白いかみしもをつけて、位牌いはいをささげています。いつもは、赤いさつまいもみたいな元気のいい顔が、きょうは何だかしおれていました。

「ははん、死んだのは兵十のおっかあだ」

 ごんはそう思いながら、頭をひっこめました。

 その晩、ごんは、穴の中で考えました。

「兵十のおっ母は、とこについていて、うなぎが食べたいと言ったにちがいない。それで兵十がはりきり網をもち出したんだ。ところが、わしがいたずらをして、うなぎをとって来てしまった。だから兵十は、おっ母にうなぎを食べさせることができなかった。そのままおっ母は、死んじゃったにちがいない。ああ、うなぎが食べたい、うなぎが食べたいとおもいながら、死んだんだろう。ちょッ、あんないたずらをしなけりゃよかった。」

 兵十が、赤い井戸のところで、むぎをといでいました。

 兵十は今まで、おっ母と二人ふたりきりで、貧しいくらしをしていたもので、おっ母が死んでしまっては、もう一人ぼっちでした。

「おれと同じ一人ぼっちの兵十か」

 こちらの物置ものおきうしろから見ていたごんは、そう思いました。

 ごんは物置のそばをはなれて、向うへいきかけますと、どこかで、いわしを売る声がします。

「いわしのやすうりだアい。いきのいいいわしだアい」

 ごんは、その、いせいのいい声のする方へ走っていきました。と、弥助やすけのおかみさんが、裏戸口から、

「いわしをおくれ。」と言いました。いわしうりは、いわしのかごをつんだ車を、道ばたにおいて、ぴかぴか光るいわしを両手でつかんで、弥助の家の中へもってはいりました。ごんはそのすきまに、かごの中から、五、六ぴきのいわしをつかみ出して、もと来た方へかけだしました。そして、兵十の家の裏口から、家の中へいわしを投げこんで、穴へむかってかけもどりました。途中とちゅうの坂の上でふりかえって見ますと、兵十がまだ、井戸のところで麦をといでいるのが小さく見えました。

 ごんは、うなぎのつぐないに、まず一つ、いいことをしたと思いました。

 つぎの日には、ごんは山でくりをどっさりひろって、それをかかえて、兵十の家へいきました。裏口からのぞいて見ますと、兵十は、午飯ひるめしをたべかけて、茶椀ちゃわんをもったまま、ぼんやりと考えこんでいました。へんなことには兵十のほっぺたに、かすり傷がついています。どうしたんだろうと、ごんが思っていますと、兵十がひとりごとをいいました。

「一たいだれが、いわしなんかをおれの家へほうりこんでいったんだろう。おかげでおれは、盗人ぬすびとと思われて、いわし屋のやつに、ひどい目にあわされた」と、ぶつぶつ言っています。

 ごんは、これはしまったと思いました。かわいそうに兵十は、いわし屋にぶんなぐられて、あんな傷までつけられたのか。

 ごんはこうおもいながら、そっと物置の方へまわってその入口に、栗をおいてかえりました。

 つぎの日も、そのつぎの日もごんは、栗をひろっては、兵十の家へもって来てやりました。そのつぎの日には、栗ばかりでなく、まつたけも二、三ぼんもっていきました。

 月のいい晩でした。ごんは、ぶらぶらあそびに出かけました。中山さまのお城の下を通ってすこしいくと、細い道の向うから、だれか来るようです。話声が聞えます。チンチロリン、チンチロリンと松虫がいています。

 ごんは、道の片がわにかくれて、じっとしていました。話声はだんだん近くなりました。それは、兵十と加助かすけというお百姓でした。

「そうそう、なあ加助」と、兵十がいいました。

「ああん?」

「おれあ、このごろ、とてもふしぎなことがあるんだ」

「何が?」

「おっ母が死んでからは、だれだか知らんが、おれに栗やまつたけなんかを、まいにちまいにちくれるんだよ」

「ふうん、だれが?」

「それがわからんのだよ。おれの知らんうちに、おいていくんだ」

 ごんは、ふたりのあとをつけていきました。

「ほんとかい?」

「ほんとだとも。うそと思うなら、あした見にいよ。その栗を見せてやるよ」

「へえ、へんなこともあるもんだなア」

 それなり、二人はだまって歩いていきました。

 加助がひょいと、うしろを見ました。ごんはびくっとして、小さくなってたちどまりました。加助は、ごんには気がつかないで、そのままさっさとあるきました。吉兵衛きちべえというお百姓の家まで来ると、二人はそこへはいっていきました。ポンポンポンポンと木魚もくぎょの音がしています。窓の障子しょうじにあかりがさしていて、大きな坊主頭ぼうずあたまがうつって動いていました。ごんは、

「おねんぶつがあるんだな」と思いながら井戸のそばにしゃがんでいました。しばらくすると、また三人ほど、人がつれだって吉兵衛の家へはいっていきました。おきょうを読む声がきこえて来ました。

 ごんは、おねんぶつがすむまで、井戸のそばにしゃがんでいました。兵十と加助は、また一しょにかえっていきます。ごんは、二人の話をきこうと思って、ついていきました。兵十の影法師かげぼうしをふみふみいきました。

 お城の前まで来たとき、加助が言い出しました。

「さっきの話は、きっと、そりゃあ、神さまのしわざだぞ」

「えっ?」と、兵十はびっくりして、加助の顔を見ました。

「おれは、あれからずっと考えていたが、どうも、そりゃ、人間じゃない、神さまだ、神さまが、お前がたった一人になったのをあわれに思わっしゃって、いろんなものをめぐんで下さるんだよ」

「そうかなあ」

「そうだとも。だから、まいにち神さまにお礼を言うがいいよ」

「うん」

 ごんは、へえ、こいつはつまらないなと思いました。おれが、栗や松たけを持っていってやるのに、そのおれにはお礼をいわないで、神さまにお礼をいうんじゃア、おれは、引き合わないなあ。

 そのあくる日もごんは、栗をもって、兵十の家へ出かけました。兵十は物置でなわをなっていました。それでごんは家の裏口から、こっそり中へはいりました。

 そのとき兵十は、ふと顔をあげました。と狐が家の中へはいったではありませんか。こないだうなぎをぬすみやがったあのごん狐めが、またいたずらをしに来たな。

「ようし。」

 兵十は立ちあがって、納屋なやにかけてある火縄銃ひなわじゅうをとって、火薬かやくをつめました。

 そして足音をしのばせてちかよって、今戸口を出ようとするごんを、ドンと、うちました。ごんは、ばたりとたおれました。兵十はかけよって来ました。家の中を見ると、土間どまに栗が、かためておいてあるのが目につきました。

「おや」と兵十は、びっくりしてごんに目を落しました。

「ごん、おまいだったのか。いつも栗をくれたのは」

 ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなずきました。

 兵十は火縄銃をばたりと、とり落しました。青いけむりが、まだ筒口つつぐちから細く出ていました。

語句の意味

  • 兵十(ひょうじゅう) ごんが住む山のふもとの村に暮らすお百姓。母親と二人きりの貧しい暮らしをしていた。
  • うなぎ 川や池にすむ細長い魚。ぬるぬるしていて、つかむのがむずかしい。昔から栄養のある食べ物として、病気の人にも食べさせた。
  • はりきり網(あみ) 川の中に張りわたして魚をとる、ふくろのような形の網。
  • 火縄銃(ひなわじゅう) 火縄の火を使って火薬に点火する、昔の鉄砲。
  • 栗(くり) 秋に実をつける木の実。いがの中に茶色のかたい実が入っている。
  • 土間(どま) 家の中で、ゆかを張らずに地面のままにしてある場所。むかしの家のだいどころなどに多かった。
  • 念仏(ねんぶつ) 仏さまの名をとなえること。ここでは、亡くなった人をとむらうため、村の人があつまって念仏をあげていた。
  • いわし売(う)り いわしを車にのせて村々をまわって売る商売の人。
  • ひがん花 秋のお彼岸のころ、田のあぜや墓地に赤い花をさかせる植物。「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」ともよばれる。
  • かみしも 武士や百姓が、葬式や祝いのときに着た、肩のはった正式な着物。
  • 位牌(いはい) 亡くなった人の名前を書いた、おまつりするための木のふだ。
  • 六地蔵(ろくじぞう) 村のはずれや墓地の入口に立てられた、六つならんだお地蔵さまの石像。

考えてみよう

  1. ごんはなぜ、兵十にいたずらばかりしていたのでしょう。お話のはじめの「一人ぼっち」という言葉に注目して考えましょう。
  2. ごんが兵十のおっ母の葬式を見たあと、「あんないたずらをしなけりゃよかった」とつぶやくのは、どんな気持ちからでしょう。
  3. ごんがいわしや栗をこっそり置いていくようになったのは、なぜですか。本文の言葉を使って書きましょう。
  4. 最後の場面で兵十は「ごん、お前だったのか。いつも栗をくれたのは」と言います。このとき兵十とごんは、それぞれどんな気持ちだったと思いますか。
  5. 物語の題名「ごんぎつね」を読み終えたあと、あなたはこの題名をどんな気持ちで読み直しますか。

指導要領との対応

このページは、文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」国語 第3学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。

  • C(1)エ — 登場人物の気持ちの変化や性格、情景について、場面の移り変わりと結び付けて具体的に想像する
  • C(1)イ — 登場人物の行動や気持ちなどについて、叙述を基に捉える
  • C(1)オ — 文章を読んで感じたことや考えたことを共有し、一人一人の感じ方などに違いがあることに気付く

※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。

出典・ライセンス

  • 原文: 新美南吉「ごんぎつね」(1932年)
  • 入力テキスト: 青空文庫 (底本:「新美南吉童話集」岩波文庫、岩波書店、1996年7月16日第1刷発行)
  • 原文の権利: パブリックドメイン
  • 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors