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一寸法師

小学校 国語 第3学年 C 読むこと 目安 20 分

作者
楠山正雄(1884–1950)
原作発表
1920 年
出典
青空文庫
底本:「日本の古典童話」講談社学術文庫、講談社、1983年(昭和58年)6月10日第1刷発行

学習のめあて

  • 昔話のおきまりの「型」(小さな主人公が試練をへて大きくなる)に気づきながら読む
  • 一寸法師の行動や言葉から、勇気・知恵・ずるさなど多面的な性格を読み取る
  • 「打ち出の小槌」が出てくる場面の不思議さを、自分の言葉で説明する

本文

 むかし、摂津国せっつのくに難波なにわというところに、夫婦ふうふものが住んでおりました。子供が一人もいないものですから、住吉すみよし明神みょうじんさまに、おまいりをしては、

「どうぞ子供を一人おさずけください。それはゆびほどの小さな子でもよろしゅうございますから。」

 と一生懸命いっしょうけんめいにおねがもうしました。

 すると間もなく、おかみさんは身持みもちになりました。

「わたしどものお願いがかなったのだ。」

 と夫婦はよろこんで、子供の生まれる日を、今日か明日あすかと待ちかまえていました。

 やがておかみさんは小さな男の赤ちゃんを生みました。ところがそれがまた小さいといって、ほんとうに指ほどの大きさしかありませんでした。

「指ほどの大きさの子供でも、と申し上げたら、ほんとうに指だけの子供を明神さまが下さった。」

 と夫婦は笑いながら、この子供をだいじにしてそだてました。ところがこの子は、いつまでたってもやはり指だけより大きくはなりませんでした。夫婦もあきらめて、その子に一寸法師いっすんぼうしと名前をつけました。一寸法師は五つになっても、やはりせいがのびません。七つになっても、同じことでした。十をしても、やはり一寸法師でした。一寸法師が往来おうらいを歩いていると、近所きんじょの子供たちが集まってきて、

「やあ、ちびが歩いている。」

「ふみころされるなよ。」

「つまんでかみつぶしてやろうか。」

「ちびやい。ちびやい。」

 と口々くちぐちにいって、からかいました。一寸法師はだまって、にこにこしていました。

 一寸法師は十六になりました。ある日一寸法師は、おとうさんとおかあさんの前へ出て、

「どうかわたくしにおひまをください。」

 といいました。おとうさんはびっくりして、

「なぜそんなことをいうのだ。」

 と聞きました。一寸法師はとくいらしい顔をして、

「これから京都きょうとのぼろうと思います。」

 といいました。

「京都へ上ってどうするつもりだ。」

「京都は天子てんしさまのいらっしゃる日本一にっぽんいちみやこですし、おもしろいしごとがたくさんあります。わたくしはそこへ行って、うんだめしをしてみようと思います。」

 そう聞くとおとうさんはうなずいて、

「よしよし、それなら行っておいで。」

 とゆるして下さいました。

 一寸法師は大へんよろこんで、さっそくたび支度したくにかかりました。まずおかあさんにぬいばりを一本いただいて、むぎわらでとさやをこしらえて、かたなにしてこしにさしました。それから新しいおわんのおふねに、新しいおはしのかいをえて、住吉のはまから舟出ふなでをしました。おとうさんとおかあさんは浜べまで見送りに立って下さいました。

「おとうさん、おかあさん、では行ってまいります。」

 と一寸法師がいって、舟をこぎ出しますと、おとうさんとおかあさんは、

「どうか達者たっしゃで、出世しゅっせをしておくれ。」

 といいました。

「ええ、きっと出世をいたします。」

 と、一寸法師はこたえました。

 おわんの舟は毎日少しずつ淀川よどがわを上って行きました。しかし舟が小さいので、少し風が強く吹いたり、雨が降って水かさが増したりすると、舟はたびたびひっくり返りそうになりました。そういう時には、しかたがないので、石垣いしがきの間や、はしぐいのかげに舟を止めて休みました。

 こんな風にして、ひと月もかかって、やっとのことで、京都に近い鳥羽とばという所に着きました。鳥羽で舟からきしに上がると、もうすぐそこは京都の町でした。五条ごじょう四条しじょう三条さんじょうと、にぎやかな町がつづいて、ひっきりなしに馬や車が通って、おびただしい人が出ていました。

「なるほど京都は日本一の都だけあって、にぎやかなものだなあ。」

 と、一寸法師は往来の人の下駄げたをよけて歩きながら、しきりに感心していました。

 三条まで来ると、たくさんりっぱなお屋敷やしきが立ち並んだ中に、いちばん目にたってりっぱな門構もんがまえのお屋敷がありました。一寸法師は、

「なんでも出世をするには、まずだれかえらい人の家来けらいになって、それからだんだんにしげなければならない。これこそいちばんえらい人のお屋敷に違いない。」

 と思って、のこのこ門の中に入っていきました。広い砂利道じゃりみちをさんざん歩いて、大きな玄関げんかんの前に立ちました。なるほどここは三条の宰相殿さいしょうどのといって、ぶりのいい大臣だいじんのお屋敷でした。

 そのとき一寸法師は、ありったけの大きな声で、

「ごめんください。」

 とどなりました。でも聞こえないとみえて、だれも出てくるものがないので、こんどはいっそう大きな声を出して、

「ごめんください。」

 とどなりました。

 三度めに一寸法師が、

「ごめんください。」

 とどなった時、ちょうどどこかへおでましになるつもりで、玄関までおいでになった宰相殿が、その声を聞きつけて、出てごらんになりました。しかしだれも玄関にはいませんでした。ふしぎに思ってそこらをお見回しになりますと、くつぬぎにそろえてある足駄あしだの陰に、豆粒まめつぶのような男が一人、になってつっ立っていました。宰相殿はびっくりして、

「お前か、今呼んだのは。」

「はい、わたくしでございます。」

「お前は何者なにものだ。」

「難波からまいりました一寸法師でございます。」

「なるほど一寸法師に違いない。それでわたしの屋敷に来たのは何の用だ。」

「わたくしは出世がしたいと思って、京都へわざわざ上ってまいりました。どうぞ一生懸命働きますから、お屋敷でお使いなさってください。」

 一寸法師はこういって、ぴょこんとおじぎをしました。宰相殿は笑いながら、

「おもしろい小僧こぞうだ。よしよし使ってやろう。」

 とおっしゃって、そのままお屋敷に置いておやりになりました。

 一寸法師は宰相殿のお屋敷に使われるようになってから、体こそ小さくても、まめまめしくよく働きました。大へん利口りこうで、気が利いているものですから、みんなから、

「一寸法師、一寸法師。」

 といって、かわいがられました。

 このお屋敷に十三になるかわいらしいおひめさまがありました。一寸法師はこのお姫さまが大好きでした。お姫さまも一寸法師がたいそうお気に入りで、どこへお出かけになるにも、

「一寸法師や。一寸法師や。」

 といって、おともにおれになりました。だんだん仲がよくなるうち、何といっても二人とも子供だものですから、いつかお友達のようになって、時々はけんかをしたり、いたずらをし合って、泣いたり笑ったりすることもありました。ある時またけんかをして、一寸法師がけました。くやしまぎれに一寸法師は、そっとお姫さまが昼寝ひるねをしておいでになるすきをうかがって、自分が殿とのさまからいただいたお菓子かしを残らず食べてしまって、残ったこなをお姫さまの眠っている口のはたになすりつけておきました。そして自分はからっぽになったお菓子のふくろを手に持って、お庭の真ん中に出て、わざと大きな声でおいおい泣いておりました。その声を聞きつけて、殿さまが縁側えんがわへ出ていらしって、

「一寸法師、どうした。どうした。」

 とお聞きになりました。

 すると一寸法師は、さも悲しそうな声をして、

「お姫さまがわたくしをぶって、殿さまから頂いたお菓子をみんな取って食べておしまいになりました。」

 といいました。

 殿さまはびっくりして、お姫さまのお部屋へやへ行ってごらんになりますと、お姫さまは口のはたにいっぱいお菓子の粉をつけて、眠っておいでになりました。

 殿さまはたいそうおおこりになって、おかあさんを呼んで、

「何だって、姫にあんな行儀ぎょうぎの悪いまねをさせるのだ。」

 ときびしくおしかりになりました。するとこのおかあさんは、少しいじの悪い人だったものですから、お姫さまのために自分がしかられたのを大そうくやしがりました。そしてくやしまぎれに、ありもしないことをいろいろとこしらえて、お姫さまが平生へいぜい大臣のおむすめに似合わず、行儀の悪いことをさんざんに並べて、

「いくら止めても、ばかにしていうことをちっとも聞かないのです。」

 とおいいつけになりました。

 宰相殿はなおなおおおこりになって、一寸法師にいいつけて、お姫さまをお屋敷から追い出して、どこか遠い所へ捨てさせました。

 一寸法師はとんだことをいい出して、お姫さまが追い出されるようになったので、すっかり気のどくになってしまいました。そこでどこまでもお姫さまのお供をして行くつもりで、まず難波のおとうさんのうちへお連れしようと思って、鳥羽から舟に乗りました。すると間もなく、ひどいしけになって、舟はずんずん川を下って海の方へ流されました。それから風のまにまに吹き流されて、とうとう三日三晩みっかみばんなみの上でらして、四日めに一つの島に着きました。

 その島には今まで話に聞いたこともないようなふしぎな花や木がたくさんあって、いったい人が住んでいるのかいないのか、いっこうに人らしいものの姿すがたは見えませんでした。

 一寸法師はお姫さまを連れて島に上がって、きょろきょろしながら歩いて行きますと、いつどこから出てきたともなく、二ひきおにがそこへひょっこり飛び出してきました。そしていきなりお姫さまにとびかかって、ただ一口に食べようとしました。お姫さまはびっくりして、気が遠くなってしまいました。それを見ると、一寸法師は、れいのぬい針の刀をきらりと引きいて、ぴょこんと鬼の前へ飛んで出ました。そしてありったけの大きな声を振り立てて、

「これこれ、このお方をだれだと思う。三条の宰相殿の姫君ひめぎみだぞ。うっかり失礼しつれいなまねをすると、この一寸法師が承知しょうちしないぞ。」

 とどなりました。二匹の鬼はこの声におどろいて、よく見ますと、足もとにまめつぶのような小男こおとこが一人、いばり返って、つッ立っていました。鬼はからからと笑いました。

「何だ。こんな豆っ粒か。めんどうくさい、のんでしまえ。」

 というが早いか、一ぴきの鬼は、一寸法師をつまみ上げて、ぱっくり一口にのんでしまいました。一寸法師は刀を持ったまま、するすると鬼のおなかの中へすべり込んでいきました。入るとおなかの中をやたらにかけずり回りながら、ちくりちくりと刀でついて回りました。鬼はくるしがって、

「あッ、いたい。あッ、いたい。こりゃたまらん。」

 と地びたをころげ回りました。そして苦しまぎれにかっといきをするはずみに、一寸法師はまたぴょこりと口から外へ飛び出しました。そして刀を振り上げて、また鬼に切ってかかりました。するともう一匹の鬼が、

生意気なまいきなちびだ。」

 といって、また一寸法師をつかまえて、あんぐりのんでしまいました。のまれながら一寸法師は、こんどはすばやくおどり上がって、のどの穴からはなの穴へ抜けて、それからのうしろへはい上がって、さんざん鬼の目玉めだまをつッつきました。すると鬼は思わず、

「いたい。」

 とさけんで、飛び上がったはずみに、一寸法師は、目の中からひょいと地びたに飛び下りました。鬼は目玉が抜け出したかと思って、びっくりして、

「大へん、大へん。」

 と、後をも見ずにげ出しました。するともう一匹の鬼も、

「こりやかなわん。逃げろ、逃げろ。」

 と後を追って行きました。

「はッは、弱虫よわむしめ。」

 と、一寸法師は、逃げて行く鬼のうしろ姿を気味よさそうにながめて、

「やれやれ、とんだことでした。」

 といいながら、そこにたおれているお姫さまをき起こして、しんせつに介抱かいほうしました。お姫さまがすっかり正気しょうきがついて、立ち上がろうとしますと、すそからころころと小さなつちがころげ落ちました。

「おや、ここにこんなものが。」

 と、お姫さまがそれをひろってお見せになりました。

 一寸法師はその槌を手に持って、

「これは鬼のわすれて行った打ち出の小槌こづちです。これをれば、何でもほしいと思うものが出てきます。ごらんなさい、今ここでわたしの背を打ち出してお目にかけますから。」

 こういって、一寸法師は、打ち出の小槌を振り上げて、

「一寸法師よ、大きくなれ。あたり前の背になれ。」

 といいながら、一振りますと背が一しゃくのび、二度振りますと三尺のび、三度めには六尺に近いりっぱな大男おおおとこになりました。

 お姫さまはそのたんびに目をまるくして、

「まあ、まあ。」

 といっておいでになりました。

 一寸法師は大きくなったので、もううれしくってうれしくって、立ったりしゃがんだり、うしろを振り向いたり、前を見たり、自分で自分の体をめずらしそうにながめていましたが、一通りながめてしまうと、急に三日三晩なんにも食べないで、おなかのへっていることを思い出しました。そこでさっそく打ち出の小槌を振って、そこへ食べきれないほどのごちそうを振り出して、お姫さまと二人で仲よく食べました。

 ごちそうを食べてしまうと、こんどは金銀きんぎん、さんご、るり、めのうと、いろいろのたからを打ち出しました。そしていちばんおしまいに、大きな舟を打ち出して、宝物たからものを残らずそれにみ込んで、お姫さまと二人、また舟に乗って、間もなく日本にっぽんくにへ帰って来ました。

 一寸法師が宰相殿のお姫さまを連れて、鬼が島から宝物を取って、めでたく帰って来たといううわさが、すぐと世間せけんにひろまって、やがて天子さまのお耳にまで入りました。

 そこで天子さまは、ある時、一寸法師をおしになってごらんになりますと、なるほど気高けだか様子ようすをしたりっぱな若者わかものでしたから、これはただ者ではあるまいと、よくよく先祖せんぞをお調しらべさせになりました。それで一寸法師のおじいさんが、堀河ほりかわ中納言ちゅうなごんというえらい人で、むじつのつみ田舎いなかに追われて出来た子が、一寸法師のおとうさんで、それからおかあさんという人も、やはりもとは伏見ふしみ少将しょうしょうといった、これもえらい人のたねだということが分かりました。

 天子さまはさっそく、一寸法師にくらいをおさずけになって、堀河の少将とお呼ばせになりました。堀河の少将は、改めて三条宰相殿さんじょうさいしょうどののおゆるしをうけて、お姫さまをおよめさんにもらいました。そして摂津国の難波から、おとうさんやおかあさんを呼び寄せて、うちじゅうがみんな集まって、楽しく世の中を送りました。

語句の意味

  • 摂津国(せっつのくに)の難波(なにわ) 今の大阪府あたりの古い地名。
  • 住吉(すみよし)の明神(みょうじん)さま 大阪の住吉大社の神さま。海の守り神として、また子授けの神として信仰された。
  • 一寸(いっすん) 約3センチメートル。むかしの長さの単位。「一寸法師」は「指ぐらいの小さなお坊さん」というほどの意味。
  • 法師(ほうし) お坊さん。ここでは「小さな男の子」のあだ名のように使われている。
  • ぬい針(ばり) ぬいものに使う、ふつうの針。一寸法師には立派な刀になる。
  • 麦わら 麦の茎をかわかしたもの。中が空洞でかたい。
  • 柄(え)とさや 「柄」は刀の手で持つところ、「さや」は刀を入れておくつつ。
  • 淀川(よどがわ) 大阪から京都に通じる大きな川。
  • 鳥羽(とば) 京都の南、淀川沿いにある古い土地の名。
  • 三条(さんじょう)の宰相殿(さいしょうどの) 京都の三条通りに屋敷を構える大臣。「宰相」は朝廷の高い役職。
  • 大臣(だいじん) 朝廷で天皇のそばに仕える、いちばん高い位の役人。
  • 家来(けらい) 大名や貴族につかえて働く人。
  • 姫君(ひめぎみ) 身分の高い家のおじょうさま。
  • 打(う)ち出(で)の小槌(こづち) 振ると、ほしいものや願いがかなう、ふしぎな小さなつち。鬼の宝物として昔話によく出てくる。
  • 天子(てんし)さま 天皇のこと。
  • 中納言(ちゅうなごん)/少将(しょうしょう) いずれも朝廷の役職。中納言の方が位が高い。

考えてみよう

  1. 一寸法師はなぜ、わざわざ京都へ上ろうと思ったのですか。本文の言葉を引いて答えましょう。
  2. 三の場面で、一寸法師はお姫さまに「いたずら」をします。あなたはこのいたずらをどう思いますか。なぜそう思うのか理由もそえて書きましょう。
  3. 鬼を倒すために、一寸法師はどんな工夫をしましたか。順を追って書いてみましょう。
  4. 打ち出の小槌で一寸法師は「大きくなりたい」とねがいました。あなたなら打ち出の小槌で何をねがいますか。理由もそえて書きましょう。
  5. むかしばなしには「小さな主人公が、大きなものに打ち勝ってえらくなる」というおきまりの形がたくさんあります。あなたが知っているほかの昔話で、にた形のお話はありますか。

指導要領との対応

このページは、文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」国語 第3学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。

  • C(1)イ — 登場人物の行動や気持ちなどについて、叙述を基に捉える
  • C(1)エ — 登場人物の気持ちの変化や性格、情景について、場面の移り変わりと結び付けて具体的に想像する
  • (3)エ — 易しい文語調の短歌や俳句を音読・暗唱する(古典との出会い)

※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。

出典・ライセンス

  • 原文: 楠山正雄「一寸法師」(1920年)
  • 入力テキスト: 青空文庫 (底本:「日本の古典童話」講談社学術文庫、講談社、1983年(昭和58年)6月10日第1刷発行)
  • 原文の権利: パブリックドメイン
  • 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors