日本国憲法・前文
中学校 公民 第3学年 現代日本の基本文書民主主義と憲法 目安 30 分
学習のめあて
- 日本国憲法前文を声に出して読み、リズムと宣言の重みを体感する
- 前文に込められた「主権在民」「基本的人権」「平和主義」の三大原則を読み取る
- 「われらは、平和を維持し…名誉ある地位を占めたいと思ふ」など、戦後日本の出発点となった思想を読み取る
本文
原文
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
— 日本国憲法(1946年公布、1947年5月3日施行)前文
三大原則のかなめ — 前文をどう読むか
日本国憲法は、三つの大きな原則を持つと言われます。前文には、その三つすべてが、この順番で凝縮されて宣言されています。
① 主権在民(しゅけんざいみん)
ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。
そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、
その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、
その福利は国民がこれを享受する。
「国の政治を最終的に決める力」は、王さまでも一部の支配者でもなく、国民みんなにある。これは、それまでの大日本帝国憲法(1889年)が「主権は天皇にあり」と定めていたのを、根本から覆す宣言です。「これは人類普遍の原理であり」と続けるところに、この主張が日本一国の都合でなく、世界共通の理であるという確信が表れています。
② 平和主義
政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする
…
平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しよう
…
全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する
「戦争の惨禍」とは、もちろん第二次世界大戦のこと。3,000万人を超える死者を出した戦争のあとで、日本国民は「もう二度と同じことをくり返さない」と誓ったのです。注目すべきは、これが 「日本だけ」ではなく「全世界の国民」の権利として語られていること。第9条の戦争放棄条項は、この前文の理念を具体化したものです。
③ 基本的人権の尊重
前文に「基本的人権」という言葉は直接出てきませんが、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」という一節は、人権宣言そのものです。これは1948年に国連で採択された「世界人権宣言」と同じ思想を、それより前に憲法に書き込んだものです。
具体的な人権の中身は、第11条以下に詳しく書かれています:
- 第13条 個人の尊重、幸福追求権
- 第14条 法の下の平等
- 第19条 思想・良心の自由
- 第21条 表現の自由、集会・結社の自由
- 第25条 健康で文化的な最低限度の生活
- 第26条 教育を受ける権利
歴史の窓 — 1947年5月3日
日本国憲法は、1947年(昭和22年)5月3日に施行されました。この日は「憲法記念日」として、今も国民の祝日になっています。
戦争が終わったのが1945年8月15日。それから1年9か月で、日本は完全に新しい憲法を持ったことになります。GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の関与が大きかった点は議論の対象ですが、明治の自由民権運動から始まる日本人自身の長い政治思想の蓄積——福沢諭吉、植木枝盛、中江兆民、吉野作造——が、敗戦という大きな転換点のなかで結実したものとも言えます。
明治と戦後をつなぐ — 3つの文書を比べる
| 文書 | 主体 | 中心理念 |
|---|---|---|
| 五箇条の御誓文(1868) | 天皇(が誓う形) | 公論・志・世界に学ぶ |
| 学問のすゝめ(1872) | 個人(が学ぶ) | 平等・実学・独立 |
| 日本国憲法前文(1947) | 日本国民(が定める) | 主権在民・平和・人権 |
主体が「天皇 → 個人 → 国民」と変化していくのが見えるはずです。明治の御誓文では「上から下へ」誓いが下りていたのが、80年後には「主権者である国民みずから」が憲法を定める、という劇的な変化が起きました。これが日本の近代の歩みです。
語句の意味
- 日本国憲法 1946年(昭和21年)11月3日に公布、1947年(昭和22年)5月3日に施行された、日本の最高法規。それまでの大日本帝国憲法(1889年制定)に代わるもので、第二次世界大戦の敗戦を受けて GHQ の指導のもと、日本政府が起草し、帝国議会で審議のうえ成立した。
- 前文(ぜんぶん) 法律や条約のはじめに置かれる、その理念や目的を示す文章。法律の本体(条文)と同じ拘束力を持つかについては議論があるが、解釈の指針として重要とされる。
- 主権(しゅけん) 国の政治を最終的に決定する権力。日本国憲法は、これが「国民」にあると宣言した(主権在民)。
- 国会(こっかい) 日本の立法機関。衆議院と参議院の二院制。
- 協和(きょうわ) 心を合わせて協力すること。
- 恵沢(けいたく) 恵み、利益、ありがたさ。
- 惨禍(さんか) 悲惨なわざわい。戦争による破壊と犠牲。
- 自由のもたらす恵沢 自由がもたらす豊かさ・幸福。
- 排除(はいじょ) しりぞけること、取り除くこと。
- 信託(しんたく) 信じてまかせること。
- 由来(ゆらい)する 〜から生まれてくる、〜にもとづく。
- 厳粛(げんしゅく) 重々しく、おごそかなさま。
- 普遍(ふへん) いつでも、どこでも、誰にでもあてはまること。
- 専制(せんせい) 一部の権力者が独断で政治を行うこと。独裁。
- 隷従(れいじゅう) 奴隷のように人に従わされること。
- 偏狭(へんきょう) 心がせまく、自分の立場や考えだけにこだわること。
考えてみよう
- 前文の冒頭「日本国民は…ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」— この一文に込められた、もっとも重要な宣言は何ですか。
- 「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」と書かれています。これは、どんな歴史的経験を踏まえての宣言でしょうか。
- 「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」— この決意は、現代の国際情勢のなかで、どのように読み返せるでしょうか。
- 前文には「日本国民」だけでなく「全世界の国民」への言及があります。「われらは、いづれの国家も…」の段落を読み、世界とのかかわりについて何を述べているか整理しましょう。
- 前文最後の「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」— あなたは、この「誓い」が今の日本でどれくらい守られていると感じますか。
- 明治の『学問のすゝめ』、明治政府の『五箇条の御誓文』、そして日本国憲法前文。1872年・1868年・1947年と時代を超えて読んだとき、共通する思想と、変わった点をそれぞれ書き出してみましょう。
指導要領との対応
このページは、文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)」公民 第3学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。
- 公民 A(1) — 個人の尊重と日本国憲法、基本的人権の尊重
- 公民 A(2) — 民主政治の発展、国民主権の原理
- 公民 B(1) — 国際社会における日本の役割、平和主義
※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。
出典・ライセンス
- 原文: 日本国(政府文書)「日本国憲法・前文」(1946年)
- 入力テキスト: 政府公布文書 (底本:日本国憲法(昭和21年11月3日公布、昭和22年5月3日施行)。政府の著作物として著作権法第13条により著作物の対象外(公有))
- 原文の権利: パブリックドメイン
- 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors