五箇条の御誓文
中学校 公民 第3学年 近代国家の出発民主主義の発展 目安 20 分
学習のめあて
- わずか5か条で示された近代日本の基本方針を、一つひとつていねいに読み解く
- 「公論」「世界に智識を求める」など、近代国家の出発点に込められた理念を理解する
- 1868年という年が、日本にとってどれほどの大転換点だったかを実感する
本文
原文
一、広く会議を興し、万機公論に決すべし
一、上下心を一にして、盛んに経綸を行うべし
一、官武一途庶民に至るまで、各々その志を遂げ、人心をして倦まざらしめんことを要す
一、旧来の陋習を破り、天地の公道に基づくべし
一、智識を世界に求め、大いに皇基を振起すべし
— 慶応4年(1868年)3月14日、京都御所紫宸殿にて宣明
現代語訳
- 広く会議を興し、万機公論に決すべし
広く会議を開いて、政治の重要事項は、多くの人々の話し合いによって決めていく。 - 上下心を一にして、盛んに経綸を行うべし
身分の上下(治める者と治められる者)が心を一つにして、国家経営を盛んに進めていく。 - 官武一途庶民に至るまで、各々その志を遂げ、人心をして倦まざらしめんことを要す
公家も武士も、一般の人々まで、それぞれが自分の志(こころざし)を実現でき、人々の意欲がくじかれないようにすることが必要だ。 - 旧来の陋習を破り、天地の公道に基づくべし
昔からの悪い習慣を打ち破り、世界に通用する普遍的な道理に立脚していく。 - 智識を世界に求め、大いに皇基を振起すべし
知識を世界に求めて学び、大いに国家の基礎をふるい起こしていく。
歴史の窓 — 1868年、日本の大転換
慶応4年(1868年)3月14日、京都御所の紫宸殿(ししんでん)。即位したばかりの明治天皇(当時16歳)が、公卿・諸侯らとともに、天地の神々に誓う形で、この5か条の基本方針を宣明しました。
この年の正月、京都郊外の鳥羽・伏見で旧幕府軍と新政府軍が戦い(鳥羽伏見の戦い)、徳川幕府は事実上崩壊。新政府はこれから日本をどう作り替えるか、内外に方針を示す必要がありました。五箇条の御誓文は、その「設計図の宣言」だったのです。
5つの方針が宣言したこと
| 条文 | これが宣言したもの |
|---|---|
| 第一条 公論 | 独裁ではなく 議論と合意 で政治を行う方針。後の議会制度につながる。 |
| 第二条 上下一心 | 支配層と被支配層の協同。それまでの「武士が支配する」体制から脱却するという意思。 |
| 第三条 志を遂げる | 身分を越えて 個人の志を実現できる社会。明治の四民平等につながる。 |
| 第四条 陋習を破る | 旧弊の打破と国際的道理。鎖国時代の習慣を改め、世界基準で物を考えるという宣言。 |
| 第五条 智識を世界に | 世界に学ぶ。鎖国2百年余りを終え、外国の知識・技術を積極的に取り入れる方針。 |
現代へのつながり — 日本国憲法との比較
五箇条の御誓文(1868年)と日本国憲法(1947年)。じつは戦後、昭和天皇は1946年元日のいわゆる「人間宣言」のなかで、明治の御誓文を引用し、「民主主義は明治からの伝統である」と述べました。一見断絶しているように見える明治と戦後ですが、「公論」「個人の志」「世界に学ぶ」という基本方針は、形を変えながら受け継がれているのです。
もちろん、御誓文と憲法には大きな違いもあります。御誓文は「天皇が誓う」形をとっているのに対し、日本国憲法は 「国民」が主権者であることを明確にしています(第1条「主権の存する日本国民」)。78年の歳月のなかで、「公論」の主体が、天皇から国民へと移ったのです。
語句の意味
- 五箇条の御誓文(ごかじょうのごせいもん) 1868年3月14日、明治天皇が京都御所で公卿・諸侯らとともに天地の神々に誓った形で公布された、新政府の基本方針。明治維新の理念を最初に明文化した文書。
- 万機(ばんき) 政治の重要事項すべて。万(よろず)の機(事柄)。
- 公論(こうろん) 衆議=多くの人の話し合いによって出た結論。「公(おおやけ)の議論」の意。
- 経綸(けいりん) 国家を治め、整えること。今でいう「国家経営」「経世済民」。
- 官武一途(かんぶいっと) 公家(朝廷の貴族)と武家(武士)が、一つになって、ということ。それまで分かれていた身分制度を一つにすることを示唆。
- 庶民(しょみん) 一般の人々。
- 倦(う)まざらしめん 飽きさせない、いやにならないようにする、の意。「人々の意欲をくじかない」というニュアンス。
- 陋習(ろうしゅう) 古い悪い習慣。旧弊。
- 天地の公道(こうどう) 普遍的な道理。国際社会で通用する道理。「公の道」の意。
- 智識(ちしき)/知識 ここでは、近代的な知識・技術・学問のこと。「智識を世界に求め」とは、世界に学ぼう、という宣言。
- 皇基(こうき) 天皇の治世の基(もとい)。国家の基礎。
- 振起(しんき) ふるい起こすこと、盛んにすること。
考えてみよう
- 五箇条の御誓文を声に出して読みましょう。漢文調のリズムが感じられるはずです。
- 第一条「広く会議を興し、万機公論に決すべし」は、現代の私たちにとってどんな意味をもつでしょう。「議会制民主主義の宣言」と評する歴史家もいます。
- 第四条「旧来の陋習を破り、天地の公道に基づくべし」の「旧来の陋習」とは、具体的に何を指していると考えられますか。歴史的背景から想像しましょう。
- 第五条「智識を世界に求め、大いに皇基を振起すべし」は、なぜ重要な宣言だったでしょう。それまでの日本(鎖国時代)と比べて考えましょう。
- わずか100字ほどの文書に、これだけの方針を凝縮した起草者たちの工夫を、自分の言葉で説明しましょう。
- 1868年と2026年、つまり158年がたった現在の日本。五箇条の御誓文の5つの方針は、それぞれどれくらい実現されたと思いますか。
指導要領との対応
このページは、文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)」公民 第3学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。
- 歴史 (5) — 近代日本のあゆみ — 明治維新、近代国家の建設
- 公民 A(2) — 民主主義の発展、国民主権の歴史的形成
- 公民 A(1) — 個人の尊重、対外協調の歴史
※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。
出典・ライセンス
- 原文: 明治政府(起草:由利公正・福岡孝弟・木戸孝允ら)「五箇条の御誓文」(1868年)
- 入力テキスト: 明治政府公布文書 (底本:「五箇条の御誓文」明治元年(1868年)3月14日、京都御所紫宸殿にて宣明。本文は公布された原文(明治政府による正式表記)に共通する標準的表記による)
- 原文の権利: パブリックドメイン
- 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors