小景異情・その二(ふるさとは遠きにありて思ふもの)

中学校 国語 第2学年 C 読むこと 目安 20 分

作者
室生犀星(1889–1962)
原作発表
1918 年
出典
青空文庫
底本:「室生犀星全詩集」筑摩書房、1962(昭和37)年初版

学習のめあて

  • 「ふるさとは遠きにありて思ふもの」の二行に込められた、複雑な望郷の念を読み取る
  • 文語の調子(「思ふもの」「うたふもの」など)が、詩の感情にどう寄与しているかを感じ取る
  • 「帰るところにあるまじや」と言いつつ「東京の空遠くなりて」と詠む、語り手の矛盾した気持ちを想像する

本文

ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食かたゐとなるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや


現代語訳(参考)

故郷というものは、遠く離れた場所から思い起こすものだ。
そして、悲しい気持ちでうたうものだ。
たとえ
落ちぶれて、よその土地で物乞いになるようなことがあったとしても、
帰っていい場所ではない(と、自分に言い聞かせる)。
ひとり、東京の夕暮れに、
故郷を思い、涙をうかべる——
そんな気持ちのまま、
遠い東京へ帰りたい。
遠い東京へ帰りたい。

この詩について

室生犀星は石川県金沢の出身。父親に認知されないまま養家で育ち、若いころから故郷に複雑な感情を抱いていました。十代で東京に出てきて、詩人として身を立てようと苦闘しました。

この詩の核心は、最初の二行で示される「ふるさとは遠きにありて思ふもの」という逆説です。故郷は、そこにいてではなく、離れた場所から思い出してこそ美しい——という、悲しくも切実な感情。

そして詩の終わりに、もうひとつの逆説が来ます。「ひとり都の夕暮ゆうぐれに/ふるさとおもひ涙ぐむ/そのこころもて/遠きみやこにかへらばや」。ここで「みやこ」は、故郷の金沢ではなく、孤独な東京のこと。故郷を思って泣いた、その同じ心で、もう一度この孤独な都へ帰っていこう——という決意です。

「故郷を遠くに置いて、そこを思い続ける」という覚悟。この詩が今もなお読まれ続けているのは、現代の私たちもまた、どこかに「遠くから思いたい場所」を抱えているからかもしれません。

語句の意味

  • 小景異情(しょうけい いじょう) 小さな風景(小景)と、それに重なる作者の特別な感情(異情)。詩集『抒情小曲集』のなかの一連で、全6篇。本詩は「その二」にあたる。
  • 「思ふもの」「うたふもの」 「思うもの」「うたうもの」の文語表現。「思ふ」「うたふ」は「思う」「うたう」と同じ意味だが、文末がやわらかく、しみじみとしたひびきになる。
  • 帰るところにあるまじや 「帰るべきところであろうはずがない」「帰ってよい場所ではない」という意味。「あるまじ」=「あるはずがない」(「ある」+打消推量「まじ」)。「や」は感嘆。
  • ひとり都のゆふぐれに 「ひとり都の夕暮れに」。ここでの「都」は東京。故郷の金沢を離れて東京で暮らす犀星自身の姿が重なる。
  • 涙ぐむ 目に涙がにじむ。声を上げて泣くのではなく、ひっそりとあふれてくる感情。
  • そのこころもて 「その心をもって」「そういう気持ちで」。「もて」は「もって」の文語形。
  • 遠きみやこにかへらばや 「遠い都に帰りたいなあ」。「かへらばや」=「帰りたい」(「ばや」は願望の助詞)。
  • 室生犀星(むろう さいせい) 1889–1962年。金沢(石川県)出身の詩人・小説家。詩集『抒情小曲集』(1918)、小説『あにいもうと』『杏っ子』など。萩原朔太郎との交友でも知られる。

考えてみよう

  1. 「ふるさとは遠きにありて思ふもの」の「遠きにありて」は、どんな状況を意味していると思いますか。本文の他の言葉と関連づけて答えましょう。
  2. 「そして悲しくうたふもの」とあります。なぜ「うれしく」ではなく「悲しく」なのでしょう。あなたの考えを書きましょう。
  3. 詩の前半「ふるさとは…帰るところにあるまじや」と、後半「ひとり都の夕暮れに…遠きみやこにかへらばや」とでは、語り手の気持ちにどんなずれがありますか。
  4. 現代の口語で書き直すと、この詩の印象はどう変わると思いますか。たとえば「ふるさとは遠くにあって思うもの/そして悲しく歌うもの」のように。
  5. あなたにとっての「ふるさと」は、どこですか。また、もしあなたがそこを離れて遠くで暮らしているとしたら、どんな気持ちでその場所を思うと思いますか。

指導要領との対応

このページは、文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)」国語 第2学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。

  • C(1)エ — 詩や短歌・俳句などを読み、書き手の意図や心情を、本文を基に想像する
  • 知識・技能(3)ア — 親しみやすい古文・漢文・近代以降の文語調の文章を音読するなどして、言葉の響きやリズムに親しむ

※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。

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出典・ライセンス

  • 原文: 室生犀星「小景異情・その二(ふるさとは遠きにありて思ふもの)」(1918年)
  • 入力テキスト: 青空文庫 (底本:「室生犀星全詩集」筑摩書房、1962(昭和37)年初版)
  • 原文の権利: パブリックドメイン
  • 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors