五箇条の御誓文 — 明治国家の誕生宣言 の表紙イラスト

五箇条の御誓文 — 明治国家の誕生宣言

高等学校 日本史 第1学年 古典 近代国家の形成明治維新近代政治の出発点 目安 30 分

作者
明治政府(草案:由利公正・福岡孝弟・木戸孝允)
原作発表
1868 年(慶応4年・明治元年 (1868) 3月14日)
出典
明治政府公布文書
底本:「五箇条の御誓文」慶応4年(1868)3月14日、京都御所紫宸殿にて明治天皇が公卿・諸侯を率いて発布。国の発布する公文書として著作権法第13条により著作物の対象外(公有)。

学習のめあて

  • 五箇条の御誓文の原文を読み、明治新政府の基本方針を理解する
  • 各条文が後の近代化政策(憲法・議会・身分制廃止・条約改正)にどう繋がったかを把握する
  • 「公議」「万機」「旧来の陋習」など、漢語の重みを通じて明治の政治語彙に触れる
  • 五箇条の御誓文と日本国憲法、戦後の「国民主権」との連続性/非連続性を考える

本文

原文(明治元年・1868年3月14日発布)

一、ひろ会議かいぎおこシ、万機ばんき公論こうろんけっスベシ。
一、上下しょうかこころいつニシテ、さかん経綸けいりんおこナフベシ。
一、官武かんぶ一途いっと庶民しょみんいたまでおのおのそのこころざしゲ、人心じんしんヲシテマザラシメンコトヲようス。
一、旧来きゅうらい陋習ろうしゅうやぶリ、天地てんち公道こうどうもとづクベシ。
一、智識ちしき世界せかいもとメ、おおい皇基こうき振起しんきスベシ。

現代語訳

  1. 第一条:広く会議を開き、国政の重要事はすべて公の議論によって決定する。
  2. 第二条:政府と人民が心を一つにして、盛んに国家経営を進める。
  3. 第三条:官吏も武士も庶民に至るまで、それぞれが志を遂げられるようにし、不満を抱かせない。
  4. 第四条:昔からの悪い習慣(攘夷思想・閉鎖性)を捨て、世界共通の道理(万国公法)に基づく。
  5. 第五条:知識を広く世界に求め、天皇を中心とする国家の基礎を盛んにする。

五か条の構造

たった 5 行のこの誓文には、近代国家への 5 つの柱が凝縮されている。

条文核心実現された政策
第一条議会・公論議会制度(1881 国会開設の詔 → 1890 帝国議会)
第二条国民統合廃藩置県(1871)・地租改正(1873)
第三条身分平等・職業選択の自由四民平等(1869)・解放令(1871)
第四条攘夷拒否・国際協調岩倉使節団(1871–1873)・条約改正交渉
第五条知識吸収・近代化学制(1872)・お雇い外国人

草案から確定版へ — 3人の手

五箇条の御誓文は、3 人の手を経て完成した。

  1. 由利公正(越前藩) ── 「議事の体大いに振るい起こすべし」など、議会制を強く意識した最初の草案。
  2. 福岡孝弟(土佐藩) ── 「列侯会議を興し」と書き換え、当面は諸大名の会議として現実的にした。
  3. 木戸孝允(長州藩) ── 最終版で「広く会議を興し」と改めた。これにより「広く=人民にまで」と読める普遍性を獲得。

三人の改訂は、明治新政府の「理想 → 現実 → 普遍化」のせめぎ合いそのもの。

戦後憲法との連続性/非連続性

1946 年の新憲法制定時、幣原喜重郎首相は記者会見で「五箇条の御誓文の精神に立ち返る」と語った。
そして 1946 年 1 月 1 日の昭和天皇の「人間宣言」でも、その冒頭に五箇条の御誓文が引用された。

これは何を意味するか。

  • 連続性:明治の出発点に既に「公論・身分平等・国際協調・知識吸収」という民主主義的萌芽があった。
  • 非連続性:「主権者は誰か」が天皇から国民へ転換した(明治憲法第1条 → 日本国憲法第1条)。

御誓文の理想は守り、天皇主権だけを国民主権に置き換える」── これが戦後改革の自己理解だった。

たった 5 行の重み

五箇条の御誓文は、日本国民にとって「明治国家の出発宣言」として、また「戦後改革の原点回帰の標的」として、二度にわたり歴史の節目で参照された。

たった 5 行の誓いが、150 年以上にわたって国の方向を指し示し続けている ── これは日本史上、極めて稀有な例である。

語句の意味

各見出し語をクリックすると、外部辞書で詳しい意味を調べられます。 ※ Wiktionary について

考えてみよう

  1. 原文を音読してみましょう。漢字の重み、対句のリズム、文末の「べし」の繰り返し ── どんな印象を受けますか。
  2. 5 か条のそれぞれを現代語に訳し、後の明治政府がどの政策でその条文を実現しようとしたかを線でつなぎましょう(例:第1条 → 議会制度、第3条 → 四民平等など)。
  3. 「広く会議を興し、万機公論に決すべし」── これは天皇主権の体制下で書かれた言葉です。それでも「公論」という民主主義的な響きを持つのはなぜでしょうか。
  4. 第4条「旧来の陋習を破り」と第5条「智識を世界に求め」は対になっています。「捨てるべき過去」と「学ぶべき未来」を明示する構造は、当時の世界(19世紀後半)にとってどのような意味を持ったでしょうか。
  5. 五箇条の御誓文は、戦後の日本国憲法とどうつながり、どう異なるでしょうか。「主権者は誰か」を中心に考えましょう。
  6. あなたが現代日本の「新たな御誓文」を 5 か条書くとしたら、どんな内容にしますか。

指導要領との対応

このページは、文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」日本史 第1学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。

  • 日本史 (4)ア — 明治維新と立憲制への歩み
  • 日本史 (4)イ — 新政府の基本方針と国際的位置
  • 歴史総合 — 近代化と日本 — アジアにおける近代国家形成

※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。

指導案 教員向け・授業展開の例

『五箇条の御誓文』を通じて、明治新政府の出発点と近代化の理念を理解する。 たった 5 行に凝縮された「議会・身分平等・国際協調・知識吸収」の構想を、後の明治政治の流れと結びつけて読み解く教材。

授業時数
2時限 (各50分)
準備
五箇条の御誓文原文(草案・確定版)、由利公正・福岡孝弟・木戸孝允の伝記資料、大日本帝国憲法・日本国憲法との対比表

指導目標

  • 五箇条の各条文の意味を理解する
  • 草案から確定版までの編纂史を学ぶ
  • 戦後憲法との連続性を考察する

授業の流れ

  1. 1時限・10分 明治維新の概略を確認 (王政復古から戊辰戦争まで)
  2. 1時限・15分 原文を音読 — 漢文調のリズム
  3. 1時限・15分 5 か条を一条ずつ現代語訳
  4. 1時限・10分 由利→福岡→木戸の改訂史を確認
  5. 2時限・20分 各条文が後の政策にどう実現したかを年表化
  6. 2時限・20分 戦後憲法との対比でディスカッション
  7. 2時限・10分 振り返り

発問例・議論のポイント

  • 「天皇主権の下での公論」は本当の民主主義か?
  • 「旧来の陋習」とは何だったか。今もそれを「破る」べき場面はあるか?
  • 「智識を世界に求め」は今も有効か。グローバル化と国家アイデンティティの間で。

発展課題

  • 福澤諭吉『学問のすゝめ』初編との関連
  • 大久保利通『立憲政体の議』との比較
  • 同時代のアジア諸国の近代化宣言との比較

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出典・ライセンス

  • 原文: 明治政府(草案:由利公正・福岡孝弟・木戸孝允)「五箇条の御誓文 — 明治国家の誕生宣言」(1868年)
  • 入力テキスト: 明治政府公布文書 (底本:「五箇条の御誓文」慶応4年(1868)3月14日、京都御所紫宸殿にて明治天皇が公卿・諸侯を率いて発布。国の発布する公文書として著作権法第13条により著作物の対象外(公有)。)
  • 原文の権利: パブリックドメイン
  • 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors