枕草子・春はあけぼの
中学校 国語 第1学年 古典 C 読むこと知識及び技能 (3) 我が国の言語文化 目安 15 分
学習のめあて
- 四つの段落の「型」(季節 + 時間帯 + 情景の細部)に気づきながら音読する
- 「をかし」「あはれなり」など平安期の美意識を表す言葉のニュアンスを知る
- 自分の好きな季節と時間帯を、清少納言の書き方をまねて短く書いてみる
本文
原文
春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。
夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。
秋は夕暮。夕日の差して山の端いと近うなりたるに、烏の寝所へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。まいて雁などの連ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など、はた言ふべきにあらず。
冬はつとめて。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭もて渡るもいとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりてわろし。
現代語訳
春は、夜明け方がいい。だんだん白くなっていく山ぎわの空が、すこし明るんで、紫がかった雲が細くたなびいている、そんな景色がうつくしい。
夏は、夜がいい。月の出ている夜の美しさは言うまでもないが、月のない真っ暗な夜も、やはりよい。たくさんの蛍があちこちに飛び交っている様子。あるいは、ただ一つ二つの蛍が、ほのかに光って行く様子も趣がある。雨など降る夜もまたいい。
秋は、夕暮れがいい。夕日が差して、山の稜線にすっかり近づいているところへ、烏(からす)が寝ぐらへ帰ろうと三羽、四羽、二羽、三羽と急いで飛んでいくさまも、しみじみと心にしみる。ましてや雁の列が空をわたっていくのが、とても小さく見えるのは、ほんとうにすばらしい。日がすっかり沈んでしまってからの、風の音、虫の声などは、もう言葉にならないほどよい。
冬は、早朝がいい。雪が降っているのは言うまでもなく、霜がとても白い朝も、そうでなくても寒い朝でも、火などを急いでおこして、炭を持ってあちこちに運んでいくさまも、まったく冬という季節にふさわしい。それが昼になって、寒さがゆるんでくると、火桶の火も白い灰ばかりになってしまって、興ざめだ。
解説
『枕草子』は、平安時代中期(11世紀初頭)に清少納言が書いた随筆です。「随筆」とは、決まった筋立てのある物語ではなく、作者が日々感じたことや観察したことを、その時々の心の動きに沿って自由に書きとめた文章のことです。
冒頭の「春はあけぼの」の段(第一段)は、四つの季節について、それぞれ「いちばん心ひかれる時間帯」を一文で言い切り、そこに見える細部を短く列挙していくという、リズミカルな構成をもっています。なぜ春は「あけぼの」で、夏は「夜」で、秋は「夕暮」で、冬は「つとめて(早朝)」なのか——清少納言の感性は、現代の私たちにもじゅうぶん通じるはずです。
平安期の美意識を表す代表的な言葉、「をかし」(趣がある)と「あはれなり」(しみじみとした感動)の使い分けも、この一段で味わうことができます。声に出して読んでみると、文語のなめらかな流れと、観察の鋭さが響き合うのが感じられるでしょう。
挿絵ギャラリー
物語の場面を、明治・大正期の児童書の挿絵を意識した和風水彩のタッチで表現しました。
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春はあけぼの。山ぎはが、淡い紫色とあんず色に染まる。 -
夏は夜。蛍がほの暗く飛び、水辺がしずかに光る。 -
秋は夕暮れ。烏が三羽四羽と寝ぐらへ、雁が小さく空を渡る。
語句の意味
各見出し語をクリックすると、外部辞書で詳しい意味を調べられます。 ※ Wiktionary について
- あけぼの K 夜明けがた。空がほのかに明るくなりはじめるころ。
- やうやう K 「やうやく(漸く)」と同じ意味で、「だんだんと」「しだいに」。
- 山ぎは(やまぎわ) K 空と山が接する、山の稜線あたりの空の部分。
- をかし K 平安時代の美意識を表す言葉。「趣がある」「すばらしい」「おもしろい」など、感じる心の明るい動きを示す。
- あはれなり K しみじみとした感動を表す。「をかし」が知的・客観的なのに対し、こちらは感情に深く沁みる感覚。
- つとめて K 早朝。明け方。「努めて(勤めて起きる時間)」が由来とされる。
- さらなり K 「言うまでもない」「もちろん」。
- なほ K それでもやはり。
- 火桶(ひおけ) K 木でできた丸い容器に灰を入れ、その中で炭を燃やす昔の暖房器具。
- つきづきし K 「似つかわしい」「ぴったり合っている」。冬の朝に炭を運ぶ姿が、季節感にぴったり合っているという意味。
- わろし K 「よくない」「みっともない」。「悪し(あし)」とほぼ同じ意味で、ややくだけた表現。
考えてみよう
- 「春はあけぼの。」のように、清少納言は四つの季節それぞれに「いちばん好きな時間」を短く言い切っています。その四つを書き出してみましょう。
- 「をかし」と「あはれなり」は、どんなときに使われていますか。本文中の例を引いて、二つの言葉の感じの違いを説明しましょう。
- 「冬はつとめて」の段では、「火桶の火も、白き灰がちになりてわろし」と、せっかくの冬の趣が崩れる場面まで書かれています。なぜ清少納言はこのマイナス面を最後に加えたのでしょう。あなたの考えを書きましょう。
- 清少納言の書き方(「季節 → 時間帯 → 細かな情景」の順)をまねて、あなたが好きな季節と時間帯の情景を、原稿用紙の3〜4行で書いてみましょう。
指導要領との対応
このページは、文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)」国語 第1学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。
- (3)ア — 音読に必要な文語のきまりや訓読の仕方を知り、古文や漢文を音読し、古典特有のリズムを通して、古典の世界に親しむ
- (3)イ — 古典には様々な種類の作品があることを知ること
- C(1)エ — 文章の構成や展開、表現の効果について、根拠を明確にして考える
※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。
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出典・ライセンス
- 原文: 清少納言「枕草子・春はあけぼの」
- 入力テキスト: 公有古典(複数校訂本を参照) (底本:「枕草子」第一段。原文は中世以来の公有著作であり、項目名・本文は複数の活字校訂本(岩波文庫『枕草子』など)と共通する標準的表記による)
- 原文の権利: パブリックドメイン
- 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors