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平家物語・祇園精舎

中学校 国語 第1学年 古典 C 読むこと知識及び技能 (3) 我が国の言語文化 目安 15 分

作者
作者不詳(伝・信濃前司行長)
成立
鎌倉時代前期(13世紀前半成立)
出典
公有古典(複数校訂本を参照)
底本:「平家物語」覚一本系統。原文は中世以来の公有著作であり、項目名・本文は複数の活字校訂本(岩波文庫『平家物語』など)と共通する標準的表記による

学習のめあて

  • 七五調を意識して音読し、文語のリズムを体に入れる(音読・暗唱)
  • 「諸行無常」「盛者必衰」など重要語句の意味を踏まえて、冒頭が示す世界観を読み取る
  • 平家物語が「語りもの」として琵琶法師によって伝えられた背景を知り、文字以外で伝わる古典の形を意識する

本文

原文

祇園精舎ぎおんしょうじゃかねこえ諸行無常しょぎょうむじょうひびきあり。
沙羅双樹しゃらそうじゅはないろ盛者必衰じょうしゃひっすいことわりをあらはす。
おごれるひとひさしからず、ただはるゆめのごとし。
たけものもつひにはほろびぬ、ひとへにかぜまへちりおなじ。

現代語訳

 祇園精舎の鐘の音には、この世のすべては移り変わってゆくものだ、という響きがこもっている。

 お釈迦さまが亡くなられたときに咲いていた沙羅双樹の花の色は、栄えた者もいつかは必ず衰えるという、変わらぬ道理を示している。

 権力を握っておごり高ぶる人も、その時代はそう長くは続かない。それはちょうど、春の夜にみる夢のように短くはかないものだ。

 どれほど勇ましく強い者でも、最後にはほろびてしまう。それは、風が吹けばすぐに飛び散ってしまう一片の塵と、まったく同じなのだ。

解説

 『平家物語』は、鎌倉時代前期(13世紀前半)に成立した日本を代表する軍記物語です。平清盛を中心とした平氏一門の栄華と、源氏との戦いによる滅亡までを、仏教の無常観のなかで描いています。

 この冒頭は、文字で読まれるよりも、目の不自由な琵琶法師たちが琵琶をかきならしながら口承で語り伝えた「語りもの」として、長く人々の耳に親しまれてきました。文末のリズムを声に出して確かめると、七・五を基調にしたゆるやかな旋律が流れているのが感じられます。

 わずか四行のなかに、平家物語全体を貫く「諸行無常」「盛者必衰」という二つの仏教的世界観が凝縮されています。これから物語に登場する平清盛・重盛・敦盛らがどのような栄華をきわめ、どのように滅んでいくか——その全体を予言するような序章なのです。

語句の意味

  • 祇園精舎(ぎおんしょうじゃ) 古代インドの祇園にあった精舎(仏教の修行・教化のための建物)。お釈迦さまが説法をした場所として有名。
  • 諸行無常(しょぎょうむじょう) 仏教の根本思想のひとつ。この世のすべては移り変わるもので、永遠不変のものはない、ということ。
  • 沙羅双樹(しゃらそうじゅ) お釈迦さまが亡くなったとき、四方にあったとされる二対の沙羅の木。花の色は白から黄ばみ落ちる、はかなさの象徴。
  • 盛者必衰(じょうしゃひっすい) 栄えている者も、必ずいつかは衰えるという仏教的な真理。
  • 理(ことわり) 道理。当然そうあるべきこと。
  • 驕(おご)れる人 思い上がってわがままにふるまう人。ここでは平家の繁栄を享受した者たちを指す。
  • 久(ひさ)しからず 長くは続かない。長続きしない。
  • 猛(たけ)き者 武勇に優れた、強い者。
  • 偏(ひとえ)に まさに、まったく。
  • 塵(ちり) ほこり。風に吹かれてすぐに飛び散ってしまう、はかないものの象徴。
  • 平家物語(へいけものがたり) 鎌倉時代前期に成立した軍記物語。平氏一門の栄華と没落を、無常観の中で描く。琵琶法師が語ったため、声に出して読まれることを前提とした七五調のリズムをもつ。

考えてみよう

  1. 「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり」を声に出して読み、どんなリズムを感じるか書き出してみましょう。
  2. 「沙羅双樹の花の色」「春の夜の夢」「風の前の塵」など、冒頭にはたくさんのたとえが使われています。これらに共通する「何を表したいか」を、自分の言葉で書きましょう。
  3. 「盛者必衰の理」とは、現代風に言うとどのような考え方ですか。あなたが知っている歴史上の出来事や物語の中から、「盛者必衰」を感じる例を一つ挙げて説明しましょう。
  4. この冒頭を、平家の栄華と滅亡を最後まで読んだうえで読み返すと、印象がどう変わると思いますか。想像して書きましょう。
  5. 暗唱してみましょう。一週間後にもう一度読んだとき、覚えている言葉はどれでしょうか。

指導要領との対応

このページは、文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)」国語 第1学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。

  • (3)ア — 音読に必要な文語のきまりや訓読の仕方を知り、古文や漢文を音読し、古典特有のリズムを通して、古典の世界に親しむ
  • (3)イ — 古典には様々な種類の作品があることを知ること
  • C(1)エ — 文章の構成や展開、表現の効果について、根拠を明確にして考える

※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。

出典・ライセンス

  • 原文: 作者不詳(伝・信濃前司行長)「平家物語・祇園精舎」
  • 入力テキスト: 公有古典(複数校訂本を参照) (底本:「平家物語」覚一本系統。原文は中世以来の公有著作であり、項目名・本文は複数の活字校訂本(岩波文庫『平家物語』など)と共通する標準的表記による)
  • 原文の権利: パブリックドメイン
  • 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors