算 額 (さ ん が く) ─ 神 社 に 奉 納 さ れ た 数 学 パ ズ ル の表紙イラスト

算 額 (さ ん が く) ─ 神 社 に 奉 納 さ れ た 数 学 パ ズ ル

小学校 算数 第5学年 古典 B 図 形数 学 史和 算 文 化 目安 30 分

作者
江戸 ~ 明治 期 の 和 算 家 た ち (匿 名 多 数)
原作発表
1683 年(江戸時代 (17–19世紀))
出典
国立国会図書館 / 日本数学史学会の資料に基づく
底本:算 額 (さ ん が く) は、 江 戸 時 代 か ら 明 治 期 に か け て、 数 学 の 問 題 や 解 法 を 絵 馬 に 描 い て 神 社 に 奉 納 す る 日 本 独 特 の 文 化。 全 国 約 900 面 が 現 存。 最 古 は 1683 年 (天 和 3 年) の 栃 木 県 星 宮 神 社 の も の。

学習のめあて

  • 江 戸 時 代 の 「算 額」 文 化 を 知 る
  • 庶 民 が 数 学 を 楽 し む 世 界 史 上 稀 有 な 例 を 学 ぶ
  • 円 と 多 角 形 の 図 形 問 題 を 体 験 す る
  • 数 学 が 「奉 納 物」 だ っ た こ と の 意 味 を 考 え る

本文

算 額 と は 何 か

江 戸 時 代 か ら 明 治 期 に か け て、 日 本 で は 「算 額」 と い う 不 思 議 な 文 化 が あ っ た。

算 額 と は、 数 学 の 問 題 と そ の 解 法 を 絵 馬 (え ま) に 描 い て、 神 社 や 寺 院 に 奉 納 す る も の で あ る。

今 か ら 340 年 以 上 前、 1683 年 (天 和 3 年) ─ 栃 木 県 佐 野 市 の 星 宮 (ほ し の み や) 神 社 に、 現 存 す る 最 古 の 算 額 が 奉 納 さ れ た。
そ の 後、 江 戸 時 代 を 通 し て 全 国 に 広 ま り、 明 治 期 ま で に 約 2000 面 以 上 の 算 額 が 奉 納 さ れ た と 推 定 さ れ る。 現 存 す る の は 約 900 面

な ぜ 神 社 に 数 学 を 奉 納 し た の か

算 額 が 奉 納 さ れ た 理 由 は、 い く つ か 考 え ら れ る。

  1. 感 謝 の 奉 納 ─ 「神 様 の お か げ で、 こ の 難 し い 問 題 が 解 け ま し た」 と お 礼 を 言 う。
  2. 挑 戦 状 の 奉 納 ─ 「こ の 問 題 を 解 け る 人 が い ま す か?」 と 全 国 の 数 学 愛 好 家 に 挑 戦 す る。
  3. 新 発 見 の 報 告 ─ 「私 は 新 し い 数 学 を 発 見 し ま し た。 神 様 に 報 告 し ま す」。
  4. 学 び の 公 開 ─ 「こ う い う 解 き 方 が あ り ま す。 皆 さ ん の 参 考 に」 と 共 有 す る。

特 に 「挑 戦 状」 と し て の 算 額 は、 各 地 の 数 学 愛 好 家 が 相 互 に 競 い 合 う 「数 学 コ ン テ ス ト」 の よ う な 機 能 を 果 た し て い た。

世 界 史 上 稀 有 な「庶 民 の 数 学 文 化」

同 時 代 の ヨ ー ロ ッ パ で、 数 学 を 学 ぶ の は 大 学 教 授・聖 職 者・貴 族 ─ つ ま り エ リ ー ト 層 だ け で あ っ た。

だ が 江 戸 時 代 の 日 本 で は ─ 武 士 ・ 商 人 ・ 農 民 が、 寺 子 屋 (て ら こ や) で 「読 み・書 き・算 盤 (そ ろ ば ん)」 を 学 び、 そ し て さ ら に 高 度 な 数 学 を も 楽 し ん だ。

庶 民 が 数 学 を 趣 味 と し て 楽 し み、 神 社 に 奉 納 す る ─ こ の 文 化 は 世 界 史 上 で も 極 め て 珍 し い

明 治 時 代 に 来 日 し た 西 洋 の 数 学 者 た ち は、 各 地 の 神 社 に 算 額 が 奉 納 さ れ て い る の を 見 て、 「な ぜ 庶 民 が こ ん な に 高 度 な 数 学 を 楽 し む の か」 と 驚 い た と 伝 え ら れ る。

算 額 で よ く 出 題 さ れ た 問 題

算 額 の 問 題 は、 多 く が 円 と 多 角 形 の 図 形 問 題 で あ っ た。

例: 「円 の 中 の 三 つ の 円」 問 題

大 き な 円 の 中 に、 同 じ 大 き さ の 3 つ の 小 円 を、 互 い に 接 し、 か つ 大 円 に も 接 す る よ う に 描 く。
大 円 の 半 径 が 6 cm の と き、 小 円 の 半 径 は い く ら か?

こ の 種 の 問 題 が、 算 額 で 何 千 と 出 題 さ れ た。
答 え に は 三 角 関 数・無 理 数・微 積 分 の 萌 芽 ま で 含 ま れ る こ と が あ り、 当 時 の 世 界 最 高 水 準 の 数 学 が、 神 社 の 絵 馬 に 描 か れ て い た の で あ る。

な ぜ 図 形 問 題 が 好 ま れ た か

  • 視 覚 的 で 美 し い ─ 絵 馬 と し て 神 社 に 奉 納 す る の に ふ さ わ し い
  • 答 え が 一 つ に 定 ま る ─ 解 け た か 解 け な い か が 明 確
  • 計 算 だ け で な く 発 想 力 が 要 る ─ 図 を 工 夫 す る 楽 し み
  • 誰 で も 取 り 組 め る ─ 数 字 が 読 め な く て も 図 を 見 て 考 え ら れ る

関 孝 和 と 算 額 文 化

和 算 史 上 最 大 の 天 才 ・ 関 孝 和 (本 サ イ ト sansu5/enseki-ritsu で 既 習) も、 算 額 文 化 と 関 わ り が あ っ た。

関 自 身 は 直 接 算 額 を 奉 納 し た 記 録 は な い が、 彼 の 弟 子 た ち は 算 額 を 奉 納 し た。
そ し て、 関 の 「点 竄 術 (て ん ざ ん じ ゅ つ)」 と い う 計 算 法 が、 算 額 を 解 く 強 力 な 道 具 と し て、 全 国 に 広 ま っ て い っ た。

1683 年 (関 孝 和 41 歳 頃) ─ 最 古 の 算 額 が 奉 納 さ れ た 年 と、 関 孝 和 の 活 躍 期 は 重 な る。
和 算 の 黄 金 期 と、 算 額 文 化 の 出 発 は、 ほ ぼ 同 時 で あ っ た。

有 名 な 算 額 が 現 存 す る 場 所

全 国 の 神 社 ・ 寺 院 に 約 900 面 の 算 額 が 残 っ て い る。 特 に 集 中 す る の は:

地 域主 な 算 額 が あ る 神 社・寺
福 島 県南 湖 神 社・諏 訪 神 社 な ど ─ 約 100 面
群 馬 県少 林 山 達 磨 寺・冨 岡 諏 訪 神 社 な ど ─ 約 80 面
栃 木 県星 宮 神 社 (最 古 の 算 額) ─ 約 60 面
長 野 県諏 訪 大 社・善 光 寺 な ど ─ 約 70 面
京 都 府北 野 天 満 宮・八 坂 神 社 な ど ─ 約 30 面
東 京 都湯 島 天 神・神 田 明 神 な ど ─ 約 20 面

特 に 「学 問 の 神 様」 と さ れ る 菅 原 道 真 を 祀 る 天 満 宮 ・ 天 神 社 に 多 く 残 さ れ て い る。
学 問 の 神 様 へ の 奉 納 と し て、 数 学 を 選 ん だ の で あ る。

現 代 の 「算 額」 文 化

算 額 文 化 は、 明 治 時 代 に 西 洋 数 学 が 普 及 す る と と も に、 一 度 衰 退 し た。
だ が 21 世 紀 に 入 っ て、 各 地 で 「算 額 文 化 の 復 興」 運 動 が 起 こ っ て い る。

  • 全 国 各 地 の 神 社 で 「現 代 の 算 額」 を 奉 納 す る イ ベ ン ト
  • 数 学 オ リ ン ピ ッ ク と 算 額 を 結 び つ け る 動 き
  • 「日 本 数 学 史 学 会」 に よ る 算 額 調 査
  • 小 中 高 校 で 算 額 を 教 材 と し て 用 い る 学 校 の 増 加

江 戸 時 代 の 庶 民 が 数 学 を 楽 し ん だ 文 化 を、 21 世 紀 の 私 た ち が 受 け 継 ぐ ─ そ ん な 動 き が、 静 か に 進 ん で い る。

あ な た 自 身 の 「算 額」 を 作 っ て み よ う

ぜ ひ、 自 分 で 「現 代 の 算 額」 を 作 っ て み よ う。

  1. 身 の 回 り の 図 形 (円・正 方 形・三 角 形) で 面 白 い 問 題 を 考 え る
  2. 絵 と 問 題 を 一 枚 の 紙 に 描 く
  3. 答 え も 一 緒 に 書 く
  4. 友 達 に 見 せ て、 「解 け る か な?」 と 挑 戦 し て も ら う

こ れ こ そ、 江 戸 の 庶 民 が 楽 し ん だ 数 学 の 心 で あ る。
340 年 前 か ら 続 く 日 本 独 特 の 数 学 文 化 を、 君 も 体 験 し て み よ う。

語句の意味

各見出し語をクリックすると、外部辞書で詳しい意味を調べられます。 ※ Wiktionary について

  • 算 額 (さ ん が く) K 江 戸 ~ 明 治 期 に 全 国 の 神 社 ・ 寺 院 に 奉 納 さ れ た、 数 学 の 問 題 と 解 法 を 描 い た 絵 馬 (え ま)。 現 存 約 900 面。 庶 民 が 数 学 を 学 び、 解 い た 喜 び を 神 仏 に 報 告 す る 日 本 独 特 の 文 化。
  • 和 算 (わ さ ん) K 江 戸 時 代 に 発 達 し た、 日 本 独 自 の 数 学。 中 国 か ら 伝 来 し た 算 術 を 元 に、 関 孝 和 ら の 天 才 が ヨ ー ロ ッ パ の 微 積 分 学 に 匹 敵 す る 水 準 ま で 発 展 さ せ た。
  • 関 孝 和 (せ き た か か ず) K 1642 頃 –1708。 江 戸 前 期 の 数 学 者。 和 算 史 上 最 大 の 天 才。 行 列 式・円 周 率 計 算 な ど で 業 績。 本 サ イ ト sansu5/enseki-ritsu で 既 習。
  • 絵 馬 (え ま) K 神 社 ・ 寺 院 に 願 い 事 を 書 い て 奉 納 す る、 馬 の 絵 が 描 か れ た 木 の 板。 算 額 も こ の 絵 馬 の 一 種 で、 こ ち ら は 数 学 の 問 題 ・ 解 法 を 描 い た。
  • 星 宮 神 社 (ほ し の み や じ ん じ ゃ) K 栃 木 県 佐 野 市 に あ る 神 社。 現 存 最 古 の 算 額 (1683 年 ・ 天 和 3 年 奉 納) が こ こ に あ る。 江 戸 算 額 文 化 の 発 祥 地 と さ れ る。
  • 内 接 円 (な い せ つ え ん) K 多 角 形 の 内 側 に ぴ っ た り 収 ま る 円。 算 額 で よ く 出 題 さ れ る 主 題。
  • 円 の 中 の 円 (え ん の な か の え ん) K 大 き な 円 の 内 部 に、 小 さ な 円 を ぎ っ し り 詰 め る パ ズ ル。 算 額 の 定 番 主 題 で、 中 学 ~ 高 校 数 学 で も 出 題 さ れ る。
  • 群 馬 県 富 岡 (ぐ ん ま け ん と み お か) K 算 額 が 多 く 現 存 す る 地 域 の 一 つ。 全 国 約 900 面 の 算 額 の う ち、 群 馬 ・ 福 島 ・ 栃 木 な ど 北 関 東 に 集 中。
  • 1683 年 (天 和 3 年) K 現 存 最 古 の 算 額 が 奉 納 さ れ た 年。 関 孝 和 が 活 躍 し て い た 時 期 と 重 な る。

考えてみよう

  1. 「算 額」 と い う 文 化 を 聞 い た こ と が あ り ま し た か? な ぜ 神 社 に 数 学 の 問 題 を 奉 納 し た の で し ょ う か?
  2. 江 戸 時 代 の 庶 民 が 数 学 を 楽 し む 文 化 は、 世 界 史 上 で も 珍 し い と さ れ ま す。 同 時 代 の ヨ ー ロ ッ パ で 数 学 は ど ん な 人 が 学 ん で い た か、 比 較 し て み ま し ょ う。
  3. 算 額 の 多 く は「内 接 円・円 と 多 角 形」 の 図 形 問 題 で す。 な ぜ こ う し た 図 形 問 題 が 好 ま れ た の で し ょ う か?
  4. あ な た の 地 域 の 神 社 に も 算 額 が 残 っ て い る か も し れ ま せ ん。 調 べ て み ま し ょ う。
  5. 現 代 の 「数 学 オ リ ン ピ ッ ク」「数 学 検 定」 と、 江 戸 の「算 額」 文 化 の 共 通 点 と 違 い は 何 で し ょ う か?

指導要領との対応

このページは、文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」算数 第5学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。

  • 5年(B) — 図 形 の 性 質 と 計 量 ─ 円 と 多 角 形
  • 5年(D) — 数 学 的 な 見 方・考 え 方 を 働 か せ て 問 題 を 解 決

※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。

指導案 教員向け・授業展開の例

小5 算 数 で 「円 と 多 角 形」 単 元 と 接 続。 数 学 を 単 な る 「計 算 の 道 具」 で は な く、 「<strong>文 化 と し て 楽 し む 営 み</strong>」 と し て 紹 介 す る 教 材。 江 戸 の 庶 民 が 数 学 を 神 社 に 奉 納 す る ─ 世 界 史 上 稀 有 な 文 化 を 知 る。

授業時数
1時限 (45分)
準備
算 額 の 写 真 集 (国 立 国 会 図 書 館 デ ジ タ ル コ レ ク シ ョ ン)、関 孝 和 略 伝、江 戸 時 代 の 寺 子 屋 文 化 の 資 料、簡 単 な 算 額 問 題 の ワ ー ク シ ー ト

指導目標

  • 算 額 文 化 を 知 る
  • 和 算 と 庶 民 数 学 の 関 係 を 理 解 す る
  • 図 形 問 題 (内 接 円・円 と 多 角 形) を 体 験 す る
  • 数 学 と 文 化 の 結 び つ き を 考 え る

授業の流れ

  1. 5分 算 額 の 写 真 を 見 る
  2. 15分 「算 額 と は」 を 解 説
  3. 15分 簡 単 な 算 額 問 題 を み ん な で 解 く
  4. 10分 「な ぜ 神 社 に 奉 納 し た か」 を 議 論

発問例・議論のポイント

  • 数 学 は 文 化 の 一 部 か、 そ れ と も 道 具 か?
  • 現 代 で「数 学 を 神 社 に 奉 納 す る」 文 化 を 復 活 し た ら ど う か?
  • ヨ ー ロ ッ パ と 江 戸 日 本、 数 学 の 楽 し み 方 は ど う 違 う か?

発展課題

  • 「日 本 数 学 史 学 会」 の 算 額 一 覧 を 見 る
  • 近 隣 の 神 社 で 算 額 を 探 す フ ィ ー ル ド ワ ー ク
  • 自 分 で「現 代 の 算 額」 を 作 っ て み る

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出典・ライセンス

  • 原文: 江戸 ~ 明治 期 の 和 算 家 た ち (匿 名 多 数)「算 額 (さ ん が く) ─ 神 社 に 奉 納 さ れ た 数 学 パ ズ ル」(1683年)
  • 入力テキスト: 国立国会図書館 / 日本数学史学会の資料に基づく (底本:算 額 (さ ん が く) は、 江 戸 時 代 か ら 明 治 期 に か け て、 数 学 の 問 題 や 解 法 を 絵 馬 に 描 い て 神 社 に 奉 納 す る 日 本 独 特 の 文 化。 全 国 約 900 面 が 現 存。 最 古 は 1683 年 (天 和 3 年) の 栃 木 県 星 宮 神 社 の も の。)
  • 原文の権利: パブリックドメイン
  • 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors