円積率 (え ん せ き り つ) — 江戸 の 円周率 (π) 計算 の表紙イラスト

円積率 (え ん せ き り つ) — 江戸 の 円周率 (π) 計算

小学校 算数 第5学年 古典 B 図形数学史数学的思考力 目安 30 分

作者
吉田光由 ・ 関孝和 ら 江戸 和算 家
原作発表
1627 年(江戸時代 (1627–1700 年代))
出典
国立国会図書館デジタルコレクション 『塵劫記』
底本:『塵劫記』(1627) を 始 め と し、 関 孝 和 『発 微 算 法』(1674) ・ 建 部 賢 弘 『綴 術 算 経』(1722) な ど、 江 戸 時 代 の 和 算 (わ さ ん) に お け る 円 周 率 計 算 の 系 譜。

学習のめあて

  • 円 周 率 (π) の 意 味 を 理 解 す る
  • 江 戸 時 代 の 和 算 が ヨ ー ロ ッ パ と 同 等 の 水 準 に あ っ た こ と を 知 る
  • 「数 学 は 世 界 共 通 の 言 葉」 と い う こ と を 体 感 す る
  • 関 孝 和 と い う 数 学 者 を 知 る

本文

円 周 率 と は 何 か

ま ず、 自 分 で 確 か め て み よ う。

  1. コ ン パ ス で 円 を 描 く (例: 半 径 5 cm の 円)
  2. 紐 (ひ も) を 円 の 周 り に そ っ て 巻 き つ け、 周 の 長 さ を 計 る
  3. そ の 円 の 「直 径」 (= 半 径 × 2) を 計 る
  4. 周 の 長 さ ÷ 直 径 を 計 算 す る

ど ん な 大 き さ の 円 で も、 こ の 計 算 を す る と、 だ い た い 同 じ 数 に な る ─ 約 3.14
こ れ が 「円 周 率」 (え ん し ゅ う り つ) で あ る。 ギ リ シ ャ 文 字 で 「π (パ イ)」 と 書 く。

江 戸 時 代 の 円 周 率

円 周 率 を 計 算 し よ う と し た 人 類 の 歴 史 は、 4000 年 以 上 前 ま で 遡 る。
古 代 エ ジ プ ト・古 代 バ ビ ロ ニ ア・古 代 ギ リ シ ャ ─ そ し て 古 代 中 国 ・ 江 戸 日 本 で も、 多 く の 数 学 者 が 円 周 率 の 計 算 に 挑 戦 し て き た。

日 本 の 江 戸 時 代 の 動 き を 見 て み よ う:

人 物円 周 率 の 桁 数
1627吉 田 光 由 『塵 劫 記』約 3.16 (初 版)、後 に 約 3.14 (改 訂)
1663村 松 茂 清3.141592 6 (小 数 点 以 下 7 桁)
1681 頃関 孝 和3.141592 65358 (小 数 点 以 下 11 桁)
1722建 部 賢 弘3.141592 6535897932384626433832795 (小 数 点 以 下 42 桁)

特 に、 関 孝 和 (せ き た か か ず) ・ 建 部 賢 弘 (た け べ か た ひ ろ) の 業 績 は、 当 時 の 世 界 最 高 水 準 で あ っ た。

関 孝 和 ─ 和 算 史 上 最 大 の 天 才

関 孝 和 (1642 頃 –1708) は、 江 戸 前 期 の 数 学 者。 「和 算 史 上 最 大 の 天 才」 と 呼 ば れ る 人 物 で あ る。

彼 は、 ヨ ー ロ ッ パ の 数 学 を 一 切 学 ぶ 機 会 が な か っ た
鎖 国 (1639–1853) の 真 っ た だ 中、 西 洋 の 数 学 書 は 日 本 に 入 っ て こ な か っ た か ら だ。

そ れ に も か か わ ら ず、 関 孝 和 は:

  • 円 周 率 を 11 桁 ま で 正 確 に 計 算 (西 洋 の ア ル キ メ デ ス・ヴ ァ ン ・ ロ ー モ ン 等 の 結 果 と 一 致)
  • 方 程 式 の 解 法 を 体 系 化
  • 行 列 式 (デ ィ タ ー ミ ナ ン ト) を 発 見 ─ ヨ ー ロ ッ パ の ラ イ プ ニ ッ ツ (1693) に 約 10 年 先 行 し た と 言 わ れ る
  • 「点 竄 術」(て ん ざ ん じ ゅ つ) と い う 代 数 の 体 系 を 確 立

ヨ ー ロ ッ パ と 接 触 し な か っ た 関 孝 和 が、 ヨ ー ロ ッ パ と 同 じ 答 え に た ど り 着 い た ─ こ れ は 何 を 意 味 す る か?
そ れ は、 「数 学 は 世 界 共 通 の 言 葉」 と い う こ と で あ る。

建 部 賢 弘 ─ 弟 子 が 師 を 超 え る

関 孝 和 の 弟 子 建 部 賢 弘 (1664–1739) は、 師 を も 超 え る 仕 事 を 残 し た。

1722 年、 彼 は 著 書 『綴 術 算 経』(て つ じ ゅ つ さ ん け い) で、 円 周 率 を 小 数 点 以 下 42 桁 ま で 正 確 に 計 算 し た。

π = 3.14159 26535 89793 23846 26433 83279 50288 4...

当 時、 ヨ ー ロ ッ パ で も こ の 桁 数 ま で 計 算 し た 例 は ご く 少 な か っ た。
鎖 国 の 中 の 日 本 で、 世 界 最 高 水 準 の 数 学 が 営 ま れ て い た の だ。

「無 限 に 続 く 数」 と い う 不 思 議

円 周 率 は、 い く ら 計 算 し て も 終 わ ら な い 数 で あ る。
そ し て、 数 字 の パ タ ー ン が 繰 り 返 さ れ な い
こ う し た 数 を 「無 理 数」 (む り す う) と 呼 ぶ。

小 学 校 で 「π ≒ 3.14」 と 習 う と き、 実 は そ の 背 後 に は、 こ う し た 不 思 議 な 「無 限」 が 隠 れ て い る。

2022 年 ─ Google の 技 術 者 が、 コ ン ピ ュ ー タ で 円 周 率 を 100 兆 桁 ま で 計 算 し た (世 界 記 録)。
そ れ で も、 ま だ 「終 わ り」 は 見 え な い。

な ぜ 円 周 率 を 計 算 す る の か?

「3.14 で 十 分 じ ゃ な い か」 と 思 う か も し れ な い。
だ が、 実 際 の 工 学・物 理 学 で は、 桁 数 が 必 要 に な る 場 面 が あ る:

  • NASA の 宇 宙 船 軌 道 計 算 ─ 約 16 桁 で 十 分
  • 地 球 の 大 き さ を 1 cm の 精 度 で 計 算 ─ 約 10 桁 必 要
  • 観 測 可 能 な 宇 宙 全 体 を 原 子 の 大 き さ で 計 算 ─ 約 40 桁 必 要

建 部 賢 弘 が 1722 年 に 求 め た 42 桁 は、 実 用 上 ほ ぼ 完 璧 な 精 度 で あ る。
そ れ 以 上 の 桁 数 は、 純 粋 に 「数 学 の 限 界 へ の 挑 戦」 と し て 計 算 さ れ て い る。

3 月 14 日 ─ π の 日

3.14 ─ こ の 数 字 か ら、 「3 月 14 日 = π (パ イ) の 日」 と 呼 ば れ、 世 界 中 の 数 学 者 や 数 学 好 き が 祝 う 日 と な っ た。

こ の 日 は、 ア ル ベ ル ト ・ ア イ ン シ ュ タ イ ン の 誕 生 日 で も あ る (1879 年 3 月 14 日)。
偶 然 だ が、 数 学 と 物 理 の 二 大 天 才 が こ の 日 で 結 ば れ て い る の は、 面 白 い。

自 分 で 計 算 し て み よ う

今 度、 家 に あ る 円 形 の も の (お 皿、 時 計、 コ ッ プ の 底) を 使 っ て、 自 分 で π を 求 め て み よ う。

  1. そ の 円 の 周 り に 紐 を 巻 き、 周 の 長 さ を 計 る
  2. 定 規 で 直 径 を 計 る
  3. 計 算: 周 ÷ 直 径 = ?
  4. 3.14 に 近 い 数 が 出 た か な?

紐 が 完 璧 に ぴ っ た り 巻 け な か っ た り、 計 測 に 誤 差 が あ っ た り す る か ら、 ぴ っ た り 3.14 に は な ら な い だ ろ う。
で も、 3.1 か ら 3.2 の 間 に 入 る は ず だ。

関 孝 和 が 400 年 前 に 11 桁 ま で 求 め た こ の 不 思 議 な 数 ─ 君 自 身 の 手 で、 そ の 一 端 に 触 れ て み よ う。

語句の意味

各見出し語をクリックすると、外部辞書で詳しい意味を調べられます。 ※ Wiktionary について

  • 円 周 率 (え ん し ゅ う り つ ・ π) K 円 の 周 り の 長 さ を、 そ の 直 径 で 割 っ た 値。 ど ん な 大 き さ の 円 で も、 ま っ た く 同 じ 値 に な る。 約 3.14159265…。 ど こ ま で 計 算 し て も 終 わ ら な い 「無 理 数」 (む り す う) で あ る。
  • 円 積 率 (え ん せ き り つ) K 江 戸 時 代 の 和 算 用 語。 「円 周 率」 と ほ ぼ 同 じ 概 念。 「円 の 面 積 を 求 め る 比 率」 の 意 味 で 使 わ れ た。
  • 塵 劫 記 (じ ん こ う き) K 吉 田 光 由 が 寛 永 4 年 (1627) に 出 版 し た、 日 本 最 初 の 本 格 的 算 術 書。 円 周 率 を 約 3.16 と 記 し て い た (後 に 改 訂 で 約 3.14 に)。
  • 関 孝 和 (せ き た か か ず ・ せ き こ う わ) K 1642 頃 –1708。 江 戸 前 期 の 数 学 者。 和 算 史 上 最 大 の 天 才 と 呼 ば れ る。 円 周 率 を 小 数 点 以 下 11 桁 ま で 正 確 に 求 め た (3.14159265358…)。 行 列 式 (デ ィ タ ー ミ ナ ン ト) の 発 見 で は、 ヨ ー ロ ッ パ の ラ イ プ ニ ッ ツ (1693) に 約 10 年 先 行 し た と 言 わ れ る。
  • 建 部 賢 弘 (た け べ か た ひ ろ) K 1664–1739。 関 孝 和 の 弟 子。 『綴 術 算 経』(て つ じ ゅ つ さ ん け い、1722) で 円 周 率 を 小 数 点 以 下 42 桁 ま で 求 め た。 当 時 の 世 界 最 高 水 準。
  • 和 算 (わ さ ん) K 江 戸 時 代 に 発 達 し た、 日 本 独 自 の 数 学。 中 国 か ら 伝 わ っ た 算 術 を 元 に、 関 孝 和 ら の 天 才 に よ り、 ヨ ー ロ ッ パ の 微 積 分 学 に 匹 敵 す る 水 準 に ま で 発 展 し た。
  • 円 に 内 接 す る 多 角 形 K 円 の 中 に ぴ っ た り と 収 ま る、 各 頂 点 が 円 周 上 に あ る 多 角 形。 多 角 形 の 辺 を 多 く す れ ば す る ほ ど、 そ の 周 の 長 さ は 円 周 に 近 づ く。 こ れ が 円 周 率 を 求 め る 古 典 的 な 方 法。
  • 無 限 (む げ ん) K 「限 り が な い」「終 わ ら な い」 こ と。 円 周 率 は 小 数 点 以 下 が 無 限 に 続 き、 し か も 同 じ 数 字 が 繰 り 返 さ れ な い (無 理 数)。

考えてみよう

  1. コ ン パ ス と 紐 (ひ も) を 用 意 し て、 自 分 で 円 を 描 き、 そ の 周 り の 長 さ と 直 径 を 計 っ て み ま し ょ う。 周 ÷ 直 径 を 計 算 す る と、 ど ん な 数 に な り ま す か?
  2. 江 戸 時 代 の 関 孝 和 は、 ヨ ー ロ ッ パ の 数 学 を 一 切 学 ぶ 機 会 が な く、 全 く 独 立 に 円 周 率 を 11 桁 ま で 求 め ま し た。 こ の 「世 界 と は 関 係 な く、 同 じ 真 理 に た ど り 着 け る」 こ と は、 数 学 の 何 を 表 し て い る で し ょ う か?
  3. 円 周 率 は、 い く ら 計 算 し て も 終 わ ら な い 数 で す。 そ れ で も、 円 の 大 き さ を 計 算 で き る の は な ぜ で し ょ う か?
  4. あ な た が 円 周 率 を 「100 万 桁 計 算 し た い!」 と 思 っ た ら、 ど う や っ て 計 算 し ま す か?

指導要領との対応

このページは、文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」算数 第5学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。

  • 5年(B) — 円周率の意味を知り、円の周りの長さや面積を求める
  • 5年(D) — 数学的な見方・考え方を働かせて問題を解決する

※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。

指導案 教員向け・授業展開の例

小5 算 数 で 「円 と 円 周 率」 を 学 ぶ 単 元 と 接 続。 教 科 書 で 「π ≒ 3.14」 と 習 う が、 そ の 背 後 に は 何 千 年 も の 計 算 の 歴 史 が あ る。 特 に、 江 戸 時 代 の 和 算 家 が ヨ ー ロ ッ パ と 同 等 の 水 準 で 円 周 率 を 求 め て い た こ と を 知 る こ と で、 「数 学 は 世 界 共 通 の 言 葉」 と い う 大 切 な 視 点 が 育 つ。

授業時数
1時限 (45分)
準備
コ ン パ ス・紐・定 規、円 周 率 の 桁 数 競 争 の 年 表 (世 界 と 日 本)、『塵 劫 記』『発 微 算 法』 の 写 真、関 孝 和 ・ 建 部 賢 弘 の 略 伝

指導目標

  • 円 周 率 と は 何 か を 理 解 す る
  • 江 戸 時 代 の 和 算 の 高 度 さ を 知 る
  • 関 孝 和 と い う 数 学 者 を 知 る
  • 「無 限」 と い う 概 念 に 触 れ る

授業の流れ

  1. 5分 「円 周 率 と は 何 か?」 を 復 習
  2. 15分 自 分 で 円 を 描 き、 周 と 直 径 を 計 測 し て π を 求 め る
  3. 10分 『塵 劫 記』『関 孝 和』『建 部 賢 弘』 の 歴 史 を 確 認
  4. 10分 「無 限 に 続 く 数」 と い う 概 念 を 議 論
  5. 5分 振 り 返 り

発問例・議論のポイント

  • ヨ ー ロ ッ パ の 数 学 者 (ア ル キ メ デ ス 等) と、 日 本 の 関 孝 和 が、 同 じ 答 え に た ど り 着 い た こ と を ど う 思 う か?
  • コ ン ピ ュ ー タ で 円 周 率 を 100 兆 桁 ま で 計 算 し た 人 が い ま す。 そ の 意 味 は?
  • 「無 限 に 続 く 数」 と い う 不 思 議 を ど う 感 じ る か?

発展課題

  • 円 周 率 の 暗 唱 大 会
  • 関 孝 和 「算 額」 を 調 べ る
  • 「3 月 14 日 = π の 日」 を 知 る

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編集部 (本サイト) / 引用 ─ 吉田光由『塵劫記』 (江戸前期 (塵劫記) / 現代)

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出典・ライセンス

  • 原文: 吉田光由 ・ 関孝和 ら 江戸 和算 家「円積率 (え ん せ き り つ) — 江戸 の 円周率 (π) 計算」(1627年)
  • 入力テキスト: 国立国会図書館デジタルコレクション 『塵劫記』 (底本:『塵劫記』(1627) を 始 め と し、 関 孝 和 『発 微 算 法』(1674) ・ 建 部 賢 弘 『綴 術 算 経』(1722) な ど、 江 戸 時 代 の 和 算 (わ さ ん) に お け る 円 周 率 計 算 の 系 譜。)
  • 原文の権利: パブリックドメイン
  • 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors