寺 田 寅 彦『藤 の 実』(中1 編) ─ 種 子 が 飛 ぶ 不 思 議 の表紙イラスト

寺 田 寅 彦『藤 の 実』(中1 編) ─ 種 子 が 飛 ぶ 不 思 議

中学校 理科 第1学年 植 物 の 種 子 散 布観 察 と 随 筆 目安 25 分

作者
寺田寅彦 (てらだ とらひこ)(1878–1935)
原作発表
1933 年(昭和初期 (1933))
出典
青空文庫 / 寺田寅彦『藤の実』
底本:寺 田 寅 彦『藤 の 実 (ふ じ の み)』(昭 和 8 年・1933、 雑 誌『中 央 公 論』 掲 載)。 ベ ラ ン ダ の 藤 の 種 が 突 然 一 斉 に は じ け 飛 ん だ 出 来 事 を、 物 理 学 者 ・ 随 筆 家 の 目 で 観 察 し た 名 随 筆。 本 サ イ ト で 既 出 の 寺 田 寅 彦 教 材 と 連 携 (chugakurika2 で 既 出 ・ 中 1 視 点 で 再 読)。

学習のめあて

  • 寺 田 寅 彦 の 観 察 眼 を 学 ぶ
  • 植 物 の 種 子 散 布 の 仕 組 み を 知 る
  • 日 常 の 不 思 議 か ら 科 学 を 始 め る

本文

1933 年 ・ ベ ラ ン ダ の 出 来 事

昭 和 8 年 (1933)、 寺 田 寅 彦 55 歳。 12 月、 自 宅 の ベ ラ ン ダ で、 突 然 ポ ン と い う 音 が し て、 何 か が 飛 ん で 来 た。 床 に 落 ち た の は ─ 藤 (フ ジ) の 種 だ っ た。

そ し て し ば ら く す る と、 ま た ポ ン、 ポ ン と 音 が 続 く。 ベ ラ ン ダ の 藤 棚 の 莢 (さ や) が、 一 斉 に は じ け て 種 を 飛 ば し て い る の だ。

寺 田 寅 彦 ─ 東 京 帝 大 物 理 学 教 授、 夏 目 漱 石 門 下 の 随 筆 家 ─ は、 こ の 観 察 を『藤 の 実』 と し て 中 央 公 論 に 発 表 し た。 物 理 学 と 随 筆、 自 然 観 察 と 文 学 が 融 合 し た 名 篇 の 一 つ で あ る。

な ぜ 一 斉 に は じ け る の か

寺 田 が 観 察 し た の は、 「同 じ 藤 棚 の、 い く つ も の 莢 が、 偶 然 に も 同 じ 時 間 に 一 斉 に は じ け る」 現 象 だ っ た。 こ れ は な ぜ か?

莢 (さ や) は、 種 子 を 包 む マ メ 科 の 殻 で あ る。 秋 ~ 冬 に 乾 燥 す る と、 殻 の 二 枚 が 異 な る 方 向 に ね じ れ よ う と し て、 強 い 内 部 応 力 を 生 む。 一 定 の 限 界 を 超 え る と、 突 然 一 気 に ね じ れ 切 っ て、 種 子 を 数 メ ー ト ル 弾 き 飛 ば す。

寺 田 は、 こ の 一 斉 性 を「気 温・湿 度 が 同 じ 棚 の 莢 を 同 時 に 限 界 へ 追 い 込 む か ら」 と 推 測 し た。

植 物 の「自 力 散 布」 ─ 種 を 飛 ば す 工 夫

植 物 は、 自 分 で 動 け な い 為、 種 を 親 か ら 離 す 工 夫 が 必 要 で あ る。 散 布 の 方 法 は い ろ い ろ ─

  • 風 散 布 ─ タ ン ポ ポ の 綿 毛、 カ エ デ の 翼
  • 水 散 布 ─ ヤ シ の 実、 蓮 の 種
  • 動 物 散 布 ─ ド ン グ リ (リ ス が 隠 す)、 葛 (く ず)・ヒ ッ ツ キ ム シ (動 物 に つ く)
  • 自 力 散 布 ─ フ ジ・ホ ウ セ ン カ・カ タ バ ミ (自 ら 弾 け る)

フ ジ の 自 力 散 布 は、 乾 燥 と 弾 力 を 利 用 し た「物 理 学 的 」 な 工 夫 で あ る ─ こ の 視 点 が、 物 理 学 者 寺 田 の 文 章 の 特 徴。

日 常 の 不 思 議 ─ 寺 田 寅 彦 の 視 点

寺 田 寅 彦 の 随 筆 の 魅 力 は、 「日 常 の 些 細 な 出 来 事 か ら、 科 学 の 大 き な 問 題 に 入 っ て い く」 と こ ろ に あ る。

本 サ イ ト で 既 出 の 寺 田 教 材 ─

  • 『茶 碗 の 湯』 ─ 茶 碗 の 湯 気 か ら 雲 ・ 気 象 へ
  • 『線 香 花 火』 ─ 火 花 か ら 化 学 ・ 物 理 へ
  • 『金 平 糖』 ─ 角 が 生 え る 不 思 議 か ら 結 晶 成 長 へ

全 て に 共 通 す る の は、 「身 の 回 り の 何 か が、 実 は 不 思 議 で あ る こ と に 気 付 く」 観 察 眼 だ。

結 び ─ 君 も「藤 の 実」 を 見 つ け よ う

寺 田 寅 彦 か ら 学 ぶ こ と は、 高 度 な 知 識 で は な く、 「日 常 を 注 意 深 く 観 察 す る 姿 勢」 で あ る。

今 日 学 校 か ら 帰 る 道 で、 何 か 一 つ「不 思 議」 を 見 つ け て み よ う。 そ し て「な ぜ?」 と 問 う て み よ う。 そ れ が 科 学 の 入 り 口 で あ る。

語句の意味

各見出し語をクリックすると、外部辞書で詳しい意味を調べられます。 ※ Wiktionary について

  • 寺 田 寅 彦 (て ら だ と ら ひ こ) K 1878–1935。 東 京 帝 大 物 理 学 教 授。 夏 目 漱 石 門 下 の 随 筆 家・俳 人。 本 サ イ ト chugakurika1/chawan-no-yu, senko-hanabi, konpeito 等 既 出。 「日 常 の 不 思 議 を 科 学 す る」 文 章 で 知 ら れ る。
  • 種 子 散 布 (し ゅ し さ ん ぷ) K 植 物 が 種 を 親 か ら 離 し て 広 げ る こ と。 風 散 布 (タ ン ポ ポ ・ カ エ デ)、 水 散 布 (ヤ シ ・ 蓮)、 動 物 散 布 (ド ン グ リ ・ 葛)、 自 力 散 布 (フ ジ ・ ホ ウ セ ン カ) 等 多 様。 中 1 理 科 で 学 ぶ。
  • 自 力 散 布 (じ り き さ ん ぷ) K 種 子 自 体 が 弾 け る 力 で 飛 ぶ 散 布 法。 フ ジ・ホ ウ セ ン カ・カ タ バ ミ 等。 種 子 が 入 っ た 莢 (さ や) が 乾 燥 で ね じ れ、 ある瞬 間 一 斉 に は じ け る。
  • 藤 (フ ジ) K マ メ 科 の 蔓 性 植 物。 春 (4–5 月) に 紫 色 の 房 状 の 花 を 咲 か せ る。 秋 ~ 冬 に 莢 (さ や) を 形 成、 乾 燥 す る と は じ け て 種 を 飛 ば す。 寺 田 寅 彦 が 観 察 し た の は 11 月 末 ~ 12 月 初 旬 の 出 来 事。
  • 莢 (さ や) K 豆 類 の 種 子 を 包 む 殻。 マ メ 科 植 物 の 特 徴。 成 熟・乾 燥 で 弾 力 が 生 じ、 突 然 ね じ れ て は じ け、 内 部 の 種 を 数 メ ー ト ル 飛 ば す こ と が 多 い。
  • 観 察 と 仮 説 ・ 検 証 (Observation and Hypothesis) K 科 学 の 基 本 手 法。 ① 観 察 → ② 仮 説 (な ぜ?) → ③ 実 験 ・ 検 証 → ④ 結 論。 寺 田 寅 彦 は 日 常 の 出 来 事 か ら こ の サ イ ク ル を 始 め る 名 人 だ っ た。

考えてみよう

  1. 寺 田 が「藤 の 実 が 一 斉 に は じ け 飛 ん だ」 こ と か ら 何 を 不 思 議 に 思 い、 ど の よ う に 観 察 を 進 め た か 想 像 し ま し ょ う。
  2. 君 の 身 の 回 り で「自 力 散 布」 す る 植 物 を 探 し て み ま し ょ う (ホ ウ セ ン カ ・ カ タ バ ミ 等)。
  3. 「観 察 ・ 仮 説 ・ 検 証」 を、 君 が 普 段 し て い る こ と に 当 て は め る と、 ど ん な 場 面 で す か?
  4. 寺 田 が「物 理 学 者」 で あ り な が ら、 植 物 の 種 子 散 布 を 観 察 し た 意 義 を 考 え ま し ょ う。

指導要領との対応

このページは、文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)」理科 第1学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。

  • 中1理科 — 植 物 の つ く り と 種 子 散 布 を 観 察 ・ 記 述 す る

※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。

指導案 教員向け・授業展開の例

中1 理 科 ・ 植 物 の つ く り 単 元 で、 寺 田 寅 彦 の 観 察 随 筆 を 通 し て、 科 学 の 入 り 口 と し て の「日 常 の 不 思 議」 を 体 験。

授業時数
1 時 限 (45 分)
準備
藤 の 実 (青 空 文 庫)、中 1 理 科 教 科 書

指導目標

  • 寺 田 寅 彦 の 観 察 眼 を 知 る
  • 種 子 散 布 を 理 解
  • 観 察 ・ 仮 説 ・ 検 証 の サ イ ク ル を 体 験

授業の流れ

  1. 10分 寺 田 寅 彦 紹 介 ・ 既 出 教 材 の 復 習
  2. 15分 『藤 の 実』 抜 粋 を 朗 読
  3. 10分 自 力 散 布 の 物 理 (莢 の ね じ れ 力)
  4. 10分 校 庭 で 散 布 植 物 を 探 す 計 画

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出典・ライセンス

  • 原文: 寺田寅彦 (てらだ とらひこ)「寺 田 寅 彦『藤 の 実』(中1 編) ─ 種 子 が 飛 ぶ 不 思 議」(1933年)
  • 入力テキスト: 青空文庫 / 寺田寅彦『藤の実』 (底本:寺 田 寅 彦『藤 の 実 (ふ じ の み)』(昭 和 8 年・1933、 雑 誌『中 央 公 論』 掲 載)。 ベ ラ ン ダ の 藤 の 種 が 突 然 一 斉 に は じ け 飛 ん だ 出 来 事 を、 物 理 学 者 ・ 随 筆 家 の 目 で 観 察 し た 名 随 筆。 本 サ イ ト で 既 出 の 寺 田 寅 彦 教 材 と 連 携 (chugakurika2 で 既 出 ・ 中 1 視 点 で 再 読)。)
  • 原文の権利: パブリックドメイン
  • 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors