『塵劫記』の問題
正月(しょうがつ)に、鼠(ねずみ)の親子 14ひき あり。
父・母 2ひきと、子 12ひき。
2月、この14ひきが、それぞれ 12ひきずつの子を産む。
3月もまた、すべての鼠が同じように子を産む。
このようにして、12月(しわす)には、ねずみは何ひきになるか。
— 吉田光由『塵劫記』より(要約)
問題のしくみを見やすく整える
『塵劫記』の元の文は、「親子14ひき」を 7組のつがい(夫婦) と数えています。つがいが12ひきの子を産むと、子のうち6組がまた新たなつがいになり、翌月にはそれぞれが12ひきずつ産む——という仕組みです。
すこし整理すると、ネズミの数は 毎月7倍ずつふえていくと考えてよい問題になります(親も生き残り、子も次の月にはつがいを組んで産む)。
月ごとに増えるネズミの数を表にしてみる
| 月 | ネズミの数 | 前月の何倍? |
|---|---|---|
| 1月 | 14 | — |
| 2月 | 98 | ×7 |
| 3月 | 686 | ×7 |
| 4月 | 4,802 | ×7 |
| 5月 | 33,614 | ×7 |
| 6月 | 235,298 | ×7 |
| 7月 | 1,647,086 | ×7 |
| 8月 | 11,529,602 | ×7 |
| 9月 | 80,707,214 | ×7 |
| 10月 | 564,950,498 | ×7 |
| 11月 | 3,954,653,486 | ×7 |
| 12月 | 27,682,574,402 | ×7 |
答え
12月のネズミの数は、なんと 276億8257万4402匹!
これは、現在の世界の人口(約80億人)の3倍以上。1月の親子14匹が、わずか11か月でこんな数になってしまいます。
計算の仕組み
毎月7倍にふえるので、12月の数は
14 × 7 × 7 × 7 × 7 × 7 × 7 × 7 × 7 × 7 × 7 × 7
つまり「14 に 7 を 11回かけた」数になります。中学校以降の数学では、これを
14 × 7¹¹(じゅういちじょう)
と書きます。「指数(しすう)」と呼ばれる書き方で、同じ数をくり返しかけ合わせる回数を、小さく上に書くのです。
「ねずみ算式に増える」という日本語
『塵劫記』のこの問題が江戸時代の人々に強い印象を残したため、日本語には今でも 「ねずみ算式に増える」 という表現が残っています。意味は「ものすごい勢いで、倍々にふえていく」。
身の回りには、ねずみ算と同じ仕組みで増えるものがたくさんあります:
- 細菌やウイルスの増え方(条件がそろえば20分で2倍)
- SNSの情報の拡散(10人に伝わる → 100人 → 1,000人 …)
- 銀行の複利の利息(毎年同じ利率を元本にかける)
- 連鎖反応(核分裂、雪崩、トランプの「都合のいい嘘」)
歴史の窓 — 倍々の不思議は世界共通
「倍々にふえると、すぐに巨大な数になる」という驚きは、世界中の数学者を魅了してきました。同じころのインドには「チェス盤と米粒」という有名な物語があります。チェス盤の最初のマスに米1粒、次のマスに2粒、その次に4粒……と、マスごとに倍々にしていくと、64マス目には1,800京(けい)粒もの米が必要になる、というお話です。
江戸の『塵劫記』のねずみ算も、その同じ「倍々の驚き」を、日本人になじみ深いネズミの繁殖力で語ったものでした。