僕の前に道はない
僕の後ろに道はできる
ああ、自然よ
父よ
僕を一人立ちにさせた広大な父よ
僕から目を離さないで守る事をせよ
常に父の気魄を僕に充たせよ
この遠い道程のため
この遠い道程のため
この詩について
『道程』は、高村光太郎が三十一歳のとき(1914年・大正3年)、長沼智恵子との結婚を翌年に控えて書いた詩です。同名の詩集『道程』の巻頭に置かれ、光太郎の代表作となりました。
もともとは百行を超える長詩でしたが、光太郎自身がこの九行に切り詰めて完成させました。「僕の前に道はない/僕の後ろに道はできる」 という冒頭は、近代日本の自由詩史上もっとも有名な二行のひとつです。
「父よ」と三度くり返される呼びかけは、実の父親ではなく、自分を一人立ちにさせた「自然」、つまり世界そのものへの祈りです。これから歩んでいく長い人生の道のりを支えてほしい、という静かな決意がこめられています。