素朴な琴

素朴な琴 (八木重吉)

このあかるさのなかへ
ひとつの素朴そぼくことをおけば
あきうつくしさにへかね
ことはしづかにりいだすだらう

げんだいごやく

この 明 (あか) るい ところに、ひとつの すなおな 琴 (こと) を 置 (お) いて みたら、 秋 (あき) の 美 (うつ) しさに、もう こらえる ことが できなくなって、 琴 (こと) が しずかに、ひとりでに 鳴 (な) り 出 (だ) すでしょう。

八木重吉という詩人

八木重吉 (1898–1927) は、東京都町田で 生まれた 詩人 です。 29 さい の とき に、結核 (けっかく) という 病気 で 亡 (な) くなりました。 若 (わか) くして 世 (よ) を さった の です。

彼 (かれ) の 詩 は、みじかい のに、ふかい ことが 特ちょう です。 たくさんの ことば を つかわない で、ひとつ の 場面 を 静 (しず) かに さしだします。

この 詩 は、わずか 4 ぎょう。けれど、秋 (あき) の 光 (ひかり) の 中に 置 (お) かれた 琴 (こと) が、 だれが 触 (ふ) れる でも なく、美 (うつく) しさに たえかねて、ひとりでに 鳴 (な) り 出 (だ) す ―― そんな 不思議 (ふしぎ) な 場面 を、私 (わたし) たち の こころ に 浮 (う) かばせます。