木 下 謙 次 郎『美 味 求 真』 ─ 食 を 探 究 す る 大 正 の 名 著

「美 味 を 求 め て 真 を 知 る」

大 正 14 年 (1925)、 一 冊 の 巨 大 な 本 が 出 版 さ れ た。 題 名 は『美 味 求 真 (び み き ゅ う し ん)』。 著 者 は 衆 議 院 議 員 ・ 木 下 謙 次 郎 (1869–1947)。

本 の 厚 さ は 1400 ペ ー ジ。 内 容 は ─ 日 本 ・ 中 国 ・ 西 洋 の 料 理 と 食 材 の 詳 細 研 究。 各 食 材 の 旬 ・ 産 地 ・ 調 理 法 ・ 栄 養 ・ 歴 史 が、 学 術 書 と し て 整 理 さ れ て い る。

題 名 の 意 味 は ─ 「美 味 (お い し さ) を 求 め て、 真 理 を 知 る」。 食 を 単 な る 楽 し み で な く、 真 理 探 究 の 一 つ と し て 捉 え る 思 想 が 込 め ら れ て い る。

木 下 謙 次 郎 ─ 政 治 家 で あ り 食 通 で あ る

木 下 は 1869 年 大 分 県 出 身。 帝 国 大 学 法 学 部 卒。 内 務 官 僚 と し て 各 県 の 知 事 を 歴 任 後、 衆 議 院 議 員 を 4 期 務 め た。 農 政 ・ 食 糧 政 策 の 専 門 家 で も あ っ た。

公 務 の 傍 ら、 木 下 は 食 文 化 に 異 常 な ま で の 情 熱 を 注 い だ。 日 本 各 地・中 国・東 南 ア ジ ア を 旅 し、 食 材 ・ 料 理 を 自 ら 調 査。 そ れ を ま と め た の が『美 味 求 真』 で あ る。

五 味 と 旬 ─ 和 食 の 基 本

木 下 は『美 味 求 真』 で、 食 の「五 味」 を 重 視 し た。

  • 甘 (あ ま) ─ 砂 糖、 蜂 蜜、 米
  • 鹹 (し お か ら い) ─ 塩、 醤 油、 味 噌
  • 酸 (す) ─ 酢、 梅 干 し、 柑 橘
  • 苦 (に が) ─ 茶、 ゴ ー ヤ、 蕗
  • 辛 (か ら) ─ 唐 辛 子、 山 椒、 大 蒜

こ の 五 味 を バ ラ ン ス よ く 取 り 入 れ る の が、 和 食 の 基 本 で あ る (現 代 で は「う ま 味」 が 加 わ り 五 つ の 基 本 味 と さ れ る)。

旬 ─ 季 節 を 食 べ る

木 下 が 強 調 し た も う 一 つ の 概 念 は 「旬 (し ゅ ん)」 ─ 食 材 が 最 も 美 味 し い 時 期。

  • ─ 筍 (た け の こ)、 菜 の 花、 蕗 (ふ き)、 山 菜
  • ─ 鮎、 茄 子、 胡 瓜、 鰻
  • ─ 松 茸、 秋 刀 魚、 栗、 柿
  • ─ 牡 蠣、 蕪、 鰤、 大 根

「同 じ 食 材 で も、 旬 と そ う で な い 時 で は 味 が 全 く 違 う」 ─ 木 下 は 旬 を 大 切 に す る 和 食 文 化 を、 科 学 的 ・ 文 化 的 に 整 理 し て 後 世 に 伝 え た。

北 大 路 魯 山 人 ら 食 通 へ の 影 響

『美 味 求 真』 は 出 版 直 後 か ら、 日 本 の 食 通 ・ 料 理 人 に 大 き な 影 響 を 与 え た。

特 に 北 大 路 魯 山 人 (1883–1959) ─ 篆 刻 家・陶 芸 家 で あ り な が ら、 日 本 屈 指 の 食 通 と し て 知 ら れ る 人 物 ─ は『美 味 求 真』 を 高 く 評 価 し、 自 ら も 食 文 化 を 追 究 し た。 漫 画『美 味 し ん ぼ』 の 海 原 雄 山 の モ デ ル と さ れ る 魯 山 人 の 系 譜 は、 木 下 か ら 続 い て い る。

食 育 ─ 木 下 か ら 君 へ

現 代 の 「食 育 (し ょ く い く)」 ─ 食 を 通 し て 健 康 ・ 文 化 ・ 環 境 を 学 ぶ 教 育 ─ の 思 想 は、 明 治 ~ 大 正 期 の 木 下 謙 次 郎 ・ 村 井 弦 斎 ら の 食 文 化 著 作 ま で 遡 る。

小 5 家 庭 科 で 「食 」 を 学 ぶ 時、 単 に 栄 養 素 や 調 理 法 を 暗 記 す る だ け で な く、 食 が 文 化・ 歴 史・哲 学 と 結 び つ く こ と を 知 っ て 欲 し い。

結 び ─ 君 の「美 味 求 真」 を 始 め よ う

「美 味 を 求 め て 真 を 知 る」 ─ こ の 言 葉 を 心 に、 今 日 の 給 食 を 食 べ て み よ う。 こ の 食 材 は ど こ で 採 れ た? 旬 は? 五 味 の ど れ?

食 を 楽 し む こ と が、 文 化 と 真 理 を 学 ぶ こ と に な る。 木 下 が 100 年 前 に 説 い た 思 想 は、 現 代 の 君 に も 通 じ る。